研究の方法 (Methodology)(観測法・解析法・実験法など)
「研究の方法」の章は、その論文の基礎を与える部分である。純粋な理論の論文以外は、気象学の論文の場合、観測や実験(数値実験、室内実験)またはデータ解析に基づくものが多い。それらの基礎となる方法やデータについて記述する。
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データについて
データ解析では解析に用いたデータについて、数値シミュレーションではモデルに与えたデータについて、また観測的研究では観測データと補助的に用いたデータについて、データの種類、その出所、解像度や精度などの特徴、解析データであればその作成法などについてまとめる。通常、自分で観測したデータ以外は、データの提供者(機関、組織)などを明示することが求められる。データの提供条件に、論文に書く場合はそれを明示することが条件となっているのが一般的である。
客観解析のような一般的なものの場合は、その作成法を詳述する必要はないが、たとえばCMAPの降水量データのような複雑な過程を経て構築されたデータについては、読者がその信頼度を判断できる程度に作成法を書く方がよい。他の論文に詳しい記述がある場合は、それを引用して詳細な説明をそれに任せることもある。
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観測法について
気象の観測は多くの場合、何らかのプロジェクトとして行われる。そのような場合、この章には観測法について次の内容が簡潔にまとめられている必要がある。論文に用いたデータは原理的には他の人が同じ解析をすれば、同じ結果が得られるように、一定期間保管されなければならない。
- PIが誰で、何を目的として、いつどこで行われた観測プロジェクトで、その資金は何であるのか。
- その論文で用いるデータはそのプロジェクトのどの部分のものであるのか。
- 観測実施領域及び解析領域。通常は図を示し、論文ででてくる地名はすべてそれに示されていなければならない。
- 研究の対象とした期間。
- 観測装置(測器)とその特性。たとえばレーダーを用いたのであれば、波長や観測範囲などの基本的情報は載せる。
- 観測方法や設定など。たとえばレーダーであれば、1シーケンスの時間や仰角、観測法(RHI,PPIなど)。
- 得られたデータの内容とその処理方法。たとえばレーダー反射強度であれば、どのように格子点化したのか、その解像度はどれくらいかなど。
- 補助的に用いたデータは何か。たとえば、気象庁の現業観測の高層観測や地上観測、及びそれらの場所など。
- データ欠損があるのであれば、その期間、領域、種類などの情報。
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数値実験について
数値実験やシミュレーションの場合は、用いたモデルの特性と実験の設定の両方を示し、原理的には他の人が同じ実験をできるように(または追試ができるように)過不足なく書かれていなければならない。
モデルの特性については、その基本方程式と物理過程(雲物理、乱流、地表面過程、放射、積雲対流など)、地形や地図投影の導入法、及び数値計算法(空間表現(差分法、スペクトル法など)、時間積分法、数値粘性など)を簡潔にまとめる。モデルに特長があればそれを強調してもよい。
実験の設定については、計算領域、計算の期間や時間、格子数、解像度、時間刻みの大きさ、初期値、境界値、地形、土地利用・海面水温・海氷などの地表面条件、鉛直座標の設定、地表面の計算法、側面境界条件、上部境界条件(スポンジ層の設定など)、地形の取り込み法、地図投影、出力時間間隔などを簡潔にまとめる。必要に応じて表にまとめてもよい。ただしあまりに詳細に述べる場合はAppendixにまとめてもよい。
計算に用いた、地形、地表面条件、海面水温、GPVなどのデータについて、それらの出所、時間・空間解像度、精度などを示す。またこれらについてのモデルで用いるときのモデル格子への内挿などのプリプロセスがあるならばそれについても述べる。
計算に用いた計算機についても必ずここに明示する。大型計算機センターの計算機を用いた場合は、ここにそれを明記するとともに謝辞にも入れること。
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データ解析について
データについては上記の通りである。データ解析では原理的には他の人が同じ解析をできるように、データの処理法や解析法を詳しくまとめる。解析法の原理が一般的でない場合は、原理についても説明をする。ただし、それが論筋からはずれて、長くなる場合はAppendixにもっていく方がよい。解析法にパラメータを含む場合(たとえば平滑化であれば、平均する格子点数など)、その具体的数値も明記する。場合によっては表などにまとめてもよい。