謝辞 (Acknowledgements)
Acknowledgements (謝辞)は、著者名に次いでデリケートな部分である。論文には様々なレベルの貢献がある。実際にその研究に携わった人は、著者に含まれるのが一般的であるが、たとえばデータやちょっとしたアイデア、あるいはアドバイスを提供した場合などは、著者ではなく謝辞に含める。提供されたデータが極めて特殊でその論文の主要部分となる場合は、著者に含めることがある。アイデアについても同じで、その論文の核心となるアイデアを提供された場合は著者となることがある。(かつて松野先生が査読か何かでアイデアを提供したとき、その論文の著者から共著者になってほしいと言われて、会ったこともない人の論文で共著者となったというような話をされていた。)そのような場合以外では、その人の貢献を謝辞に含めることで、謝意を表すとともに評価を与えるのである。アイデアをもらっておきながら、謝辞にも含めないのはフェアーではない。
Acknowledgements (謝辞)で感謝の意を述べるあるいは、含めるべき内容には以下のものがある。
- データやアイデアなどを提供してもらい、著者には入らないが、論文に貢献してくれた人への謝辞。
- 研究を進めたり論文を書いたりしたときに、手伝いをしてくれたり、議論してくれた人々への謝辞。
- 場合によっては観測などの現地で大きな貢献をしてくれた方々への謝辞。
- プロジェクトで行った研究の論文の場合は、そのプロジェクトオフィスとプロジェクトリーダーへの謝辞。
- 最近の論文では、査読付きレフリーの場合、anonymous referees として、査読者への謝辞を述べることが多い。
- 大学や研究所などの大型計算機を用いた場合は、用いた計算機とそのセンター名。
- 図の作成などで用いたアプリケーションソフトウエアの名前。
- 組織としてプロジェクトなどに貢献をしてもらった場合はその組織の名前。
- 研究費の出所。科研費を用いた場合はどの種目の何という課題での研究費かを明記する。これは忘れられがちであるが、大変重要な項目であるので、決して忘れてはいけない。
査読付き論文の場合、必ず担当編集委員がいる。論文の受理までには担当編集委員は著者とレフリーの間に立って意見の調整などの大変な苦労をするわけであるが(特に出来の悪い論文では苦労をする)、担当編集委員への謝辞はここに含めないのが一般的である。ただし、改訂の過程で、担当編集委員がアイデアをくれることがある。そのような場合は例外的に謝辞に含めなければならない。これは編集委員の仕事の範囲を超えて、個人としてアイデアを与えてくれているからである。学生が論文を投稿するようなときにこのようなことがときどきみられる。
上記のように Acknowledgements (謝辞)には、謝意を表すことと、人、組織、機関、予算などのその論文への貢献を評価するという役割がある。あまり知られていないことであるが、Acknowledgements (謝辞)には、もう一つの重要な役割がある。それはAcknowledgements (謝辞)に、ある人(たいていはその分野の権威ある人)や機関の名前を入れることによって、その論文の権威付けを助けるというものである。その分野での権威ある人の、たとえば議論をしたなどの貢献がある論文となると、査読者は「この人と議論をした上での結果であれば信憑性があるかも知れない」と思うのである。また、読者はその人が謝辞に入っているのだから価値のある論文だと思うことが多い。謝辞にはいっているということはその論文に何らかの貢献があったということと同時に、その論文を是認したという責任を伴う。このことは逆に言うと、基本的に謝辞に入れてよいかどうかは、いちいちその人に確認しなければならない。論文のドラフトをみせられて、このような論文の謝辞に入れてもらっては困るという場合もある。謝辞を書く上で、明らかに謝辞を述べてよい場合以外は、この点に注意が必要である。