論文ではさける方がよい用法



  1. 口語的表現はさける。

     日本語でも英語でも、口語と文語がある。いわゆる「話し言葉」と「書き言葉」である。日本語の論文でも英語論文でも、基本的に論文では口語的な表現は避けるべきである。Leggett氏も、文章を "and", "but", "so" ではじめてはいけないと、また、"too"で終えてはいけないと書いている。

    • "and" の代わりに "moreover", "further"。
    • "but" の代わりに "however", "nevertheless"。
    • "so" の代わりに "therefore", "hence"。

    を用いることを薦めている。

     一方で、あまりに難しい言葉ばかりを使うのも、わかりにくさという観点から好ましいとはいえない。たとえば「○○を用いる」と言うときには、"use"でも"utilize"でもいいと私は思う。

  2. 受動態はできるだけさける。

     日本語では主語を省略できるが、英語では基本的に主語が必要である。英語の場合は「無生物主語」を用いることができるので、これをよく考えに入れて、できるだけ受動態を避けるようにして書く。これは受動態は「誰による(あるいは何による)ものであるのか」がわかりにくくなり、文章が曖昧になるからである。能動態で書くためには、

    • 無生物主語を用いる。

      たとえば、”... is shown in Fig. 1.”は ”Figure 1 shows ...”のほうがよい。

    • 「著者」を主語とする。

      客観的であるべき論文では、自分(著者)が主語になることを避ける傾向が昔の論文にはあった。最近の論文では、むしろ主語が明示される方がよいとされる。それによって曖昧さが軽減されるのである。”the author(s) consider(s) that...”のように書くのがよい。しばしば、 ”It is considered that ...”というのをみかけるが、このような表現は使うべきではない。また、より一般には下記の"we" を主語として用いるほうがよりよい。

    • Weを主語として用いる。

      上記の”The author(s)”を主語として用いるのと同じであるが、もっと一般的にしばしば主語として "We"が用いられる。"It is found that ..." ではなく、"We found that ..."のように書くべきである。著者が単名であっても、"I"ではなく"We"を用いるのが習慣である。(主語を明確にするが、"I"を用いると「私が」が強調されすぎて、ややエゴイスティックに見えるからかも知れない。また、単名の論文とはいえ、その論文を書くまでには、多くの協力者があったはずであるから、その人達を尊重するという気持ちもあるのだろう。)AbstractではWeを用いない傾向にあったが、最近の論文では、we をabstractでも用いてもかまわない。

      *「科学英語論文のすべて」p42には次のように書かれている。「Weは複数の著者が自分たちのことを言うのに用いてよいが、単数の著者が we を用いるときは、単なる I の代用ではなく、読者を含む we (これを editorial we という)として用いる。」のだそうだ。単数著者の論文でもweを用いるとき、このweを "editorial we" というのは、他の論文の書き方の解説でもそのように書いてある。


  3. "It is ... that ..."の構文は用いない。

    これも先に述べた能動態を用いるということと同じで、このような構文では、主語が不明になり、曖昧な文章となる。

    • "It is considered that ..." は次のように書くべきである。"We consider that ..."
    • "It was found that ..."  => "We found that..."
    • "It is concluded that ..."  => "Thus we conclude that ..."
    • "It is inferred that ..."  => "Consequently, we infer that ..."
    • "It is evident that ..." => "Evidently, ..."
    • "It is clear that ..." => "Clearly, ..."
    • "It will be seen that ..." このような表現は用いない。
    • "It would appear that ..." => "Apparently ..."
    • "It should be noted that ..." このような表現は用いない。


  4. えん曲な表現は避ける。

    • "We can say that ..."
    • "It may be said that ..."

    などの表現はえん曲な表現であり、論文では用いない。

  5. "could", "would", "might", "maybe"などは用いない。

     これらの語を用いると、文章があいまいになる。"could", "would"は仮定法でも、助動詞"can", "may"の過去形としても用いられるのでわかりにくい。英語を母国語としない日本人には、"could", "would", "might"は、正確に用いることは難しく、しばしば意図したことと異なる意味になる。"could", "would", "might"のあいまいさの程度を正確に説明できる日本人は少ないであろう。

     たとえば、観測などで「ある降雨帯が観測できた。」と言いたいとき、”A rainband could be observed.”と書いては間違いである。これは、"We could observe a rainband."と書いても間違いである。"We observed a rainband."のように書くべきである。

  6. 一つの文章に修飾語・句・節を多用しない。

     これは一つの文章が長くなりすぎないことと関連する。ときどきwhichや that に導かれる修飾節が、2つ以上一つの文章に入っているものを見かけるが、このような多重のあるいは多連結の修飾節は用いない。修飾節あるいは句をたくさんつけて説明したいときは、文章を2つ以上にきって、修飾、被修飾の関係がはっきりするように書くことで、わかりやすい文章となる。また、基本的には修飾語・句・節はできるだけ被修飾語の近いところにおくべきである。


英語論文を書くときの注意点

論文の書き方