論文ではさける方がよい用法
口語的表現はさける。
日本語でも英語でも、口語と文語がある。いわゆる「話し言葉」と「書き言葉」である。日本語の論文でも英語論文でも、基本的に論文では口語的な表現は避けるべきである。Leggett氏も、文章を "and", "but", "so" ではじめてはいけないと、また、"too"で終えてはいけないと書いている。
- "and" の代わりに "moreover", "further"。
- "but" の代わりに "however", "nevertheless"。
- "so" の代わりに "therefore", "hence"。
を用いることを薦めている。
一方で、あまりに難しい言葉ばかりを使うのも、わかりにくさという観点から好ましいとはいえない。たとえば「○○を用いる」と言うときには、"use"でも"utilize"でもいいと私は思う。
受動態はできるだけさける。
日本語では主語を省略できるが、英語では基本的に主語が必要である。英語の場合は「無生物主語」を用いることができるので、これをよく考えに入れて、できるだけ受動態を避けるようにして書く。これは受動態は「誰による(あるいは何による)ものであるのか」がわかりにくくなり、文章が曖昧になるからである。能動態で書くためには、
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無生物主語を用いる。
たとえば、”... is shown in Fig. 1.”は ”Figure 1 shows ...”のほうがよい。
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「著者」を主語とする。
客観的であるべき論文では、自分(著者)が主語になることを避ける傾向が昔の論文にはあった。最近の論文では、むしろ主語が明示される方がよいとされる。それによって曖昧さが軽減されるのである。”the author(s) consider(s) that...”のように書くのがよい。しばしば、
”It is considered that ...”というのをみかけるが、このような表現は使うべきではない。また、より一般には下記の"we" を主語として用いるほうがよりよい。
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Weを主語として用いる。
上記の”The author(s)”を主語として用いるのと同じであるが、もっと一般的にしばしば主語として "We"が用いられる。"It is found that ..." ではなく、"We found that ..."のように書くべきである。著者が単名であっても、"I"ではなく"We"を用いるのが習慣である。(主語を明確にするが、"I"を用いると「私が」が強調されすぎて、ややエゴイスティックに見えるからかも知れない。また、単名の論文とはいえ、その論文を書くまでには、多くの協力者があったはずであるから、その人達を尊重するという気持ちもあるのだろう。)AbstractではWeを用いない傾向にあったが、最近の論文では、we をabstractでも用いてもかまわない。
*「科学英語論文のすべて」p42には次のように書かれている。「Weは複数の著者が自分たちのことを言うのに用いてよいが、単数の著者が we を用いるときは、単なる I の代用ではなく、読者を含む we (これを editorial we という)として用いる。」のだそうだ。単数著者の論文でもweを用いるとき、このweを "editorial we" というのは、他の論文の書き方の解説でもそのように書いてある。
"It is ... that ..."の構文は用いない。
これも先に述べた能動態を用いるということと同じで、このような構文では、主語が不明になり、曖昧な文章となる。
- "It is considered that ..." は次のように書くべきである。"We consider that ..."
- "It was found that ..." => "We found that..."
- "It is concluded that ..." => "Thus we conclude that ..."
- "It is inferred that ..." => "Consequently, we infer that ..."
- "It is evident that ..." => "Evidently, ..."
- "It is clear that ..." => "Clearly, ..."
- "It will be seen that ..." このような表現は用いない。
- "It would appear that ..." => "Apparently ..."
- "It should be noted that ..." このような表現は用いない。
えん曲な表現は避ける。
- "We can say that ..."
- "It may be said that ..."
などの表現はえん曲な表現であり、論文では用いない。
"could", "would", "might", "maybe"などは用いない。
これらの語を用いると、文章があいまいになる。"could", "would"は仮定法でも、助動詞"can", "may"の過去形としても用いられるのでわかりにくい。英語を母国語としない日本人には、"could", "would", "might"は、正確に用いることは難しく、しばしば意図したことと異なる意味になる。"could", "would", "might"のあいまいさの程度を正確に説明できる日本人は少ないであろう。
たとえば、観測などで「ある降雨帯が観測できた。」と言いたいとき、”A rainband could be observed.”と書いては間違いである。これは、"We could observe a rainband."と書いても間違いである。"We observed a rainband."のように書くべきである。
一つの文章に修飾語・句・節を多用しない。
これは一つの文章が長くなりすぎないことと関連する。ときどきwhichや that に導かれる修飾節が、2つ以上一つの文章に入っているものを見かけるが、このような多重のあるいは多連結の修飾節は用いない。修飾節あるいは句をたくさんつけて説明したいときは、文章を2つ以上にきって、修飾、被修飾の関係がはっきりするように書くことで、わかりやすい文章となる。また、基本的には修飾語・句・節はできるだけ被修飾語の近いところにおくべきである。