定冠詞(the definite article)と不定冠詞(an indefinite article)
【基本的内容】
定冠詞(the)と不定冠詞(a/an)は、名詞の前に置かれて重要な意味を表す(形容詞や過去分詞の前に置かれて、それらが普通名詞や抽象名詞になることもあるが、気象の論文ではほとんどみかけない)。「THEがよくわかる本」(参考図書参照)には、冠詞の気持ちをよく表した次の文章がある。
a/an も theも「一つです」といっている。ちがいは a/an は「他にもあります」とささやいている。the は「他にはありません」と教えている。
これは非常によくa/an と the の使い方の指針を表している。
"The" implies one and only.
"A/An" suggests one of many.
なのである。冠詞はこれを指針として使うとよい。数えられる名詞(Countable Noun)には通常、冠詞が付くが、この点を常に意識して、A/An または The を選ぶとよい。そうはいっても冠詞の扱いは常に迷うものである。単数形・複数形との組み合わせを考えると、次の5通りが考えられる。
- 不定冠詞(a/an)+単数形の名詞
- 定冠詞(the)+単数形の名詞
- 定冠詞(the)+複数形の名詞
- 冠詞のない単数形名詞
- 冠詞のない複数形名詞
名詞を用いる場合、これら5通りの表現を適切に選ばなければならない。冠詞には決定的に意味を変える場合と、感覚的に決まるものがある。論文では前者については細心の注意を払って書く必要があるが、後者についてはあまり気にせず英文添削などに任せればよい(前者については英文添削に任せてはいけない)。
気象学の論文で見かける冠詞の例をあげておく。
- 定冠詞(the)をつけるもの
- the Baiu front
- the Baiu season
- the Pacific Ocean
- the Korean Peninsula
- the Tokai District
- the Philippines (フィリピン諸島:複数形であることに注意)
- the China continent (continent は小文字)
- The main objectives of this study are
- the HUBEX group
- the Japanese Islands (islands): 日本列島
- 冠詞をつけないもの
- East Asia
- Nagoya University
- Nagoya City, Tokai City
- UNESCO, HyARC (機関の名前)
- JMA (the Japan Meteorological Agency)
- Baiu, Meiyu
- GAME/HUBEX
- 不定冠詞(a, an)をつけるもの
- for a long time (長期に渡って)
- with a total rainfall amount of 564mm in Tokai City
- 冠詞を省略するもの
- a kind of や a sort of の次に来る普通名詞。
A bat is a kind of animal.
- 抽象的な概念を示す名詞。多くの場合は前置詞を前に取る。
She is still in hospital.
- 対句または意味が関連して対照する2個の名詞。
day and night, from hand to mouth
- by と結ぶ乗り物の名前
by train, by car
- 手段、方法を示すby と結んで成句となる名詞。
by telephone, by mail
- 前置詞と結んで成句となる名詞。
by chance, at dawn, at night, at noon, at table, on foot
- 冠詞の反復
- and で結ばれた2つ以上の名詞が別の人やものを表すときは冠詞を
反復する。
They are an actress and a singer.
She is an actress and singer (同一人物)
- 一つのものが他のものに附属して一体となっているときは冠詞を
反復しない。
I presented him with a gold watch and chain.
- 2つ以上の形容詞の場合。
I planted a red and white rose. (赤白まだらのバラを植えた。
(一本))
I planted a red and a white rose. (赤いバラと白いバラを植え
た。(2本))
冠詞は重要であるが、一方で、A. J. Leggett氏は次のようなencouragingともとれることを述べている。「しかし、一般に筆者は”a”と”the”について過度に気を使わない方がよいのです。というのはもっと注意するのに値する他の点がたくさんあるからです。」
【文法の詳細−名詞と冠詞について】
冠詞の用法を理解するためには、名詞のタイプを整理しておくとわかりやすい。名詞には数えられる名詞と数えられない名詞があり、それぞれ次のような種類の名詞を含んでいる。
数えられる名詞:普通名詞、集合名詞
数えられない名詞:固有名詞、物質名詞、抽象名詞
普通名詞
同種類の人やものに共通に用いられる名称を表す名詞。定冠詞・不定冠詞をつける場合、つけない場合、単数と複数などの区別を明らかにして用いなければならない。
集合名詞
同種の人やものの集合の名を表す名詞。普通名詞と同じ扱いをするものは不定冠詞をつけたり、複数にすることができる(たとえば、family, people など)。一方、物質名詞と同じ扱いをするものは、不定冠詞をつけない(たとえば furniture, food など )。
固有名詞
人やものに固有の名をあらわす名詞。固有名詞は原則として冠詞をつけないし、複数形にもならない。ただし、習慣として定冠詞をつけなければならないものがある。
物質名詞
一定の形がないので、数で数えることができない物質の名称を表す名詞。物質名詞には単数と複数の区別がなく、複数形を持たない。また、不定冠詞をつけない(たとえば、paper, gold, oxygen, water, air, stone, snow, money, smoke, rice, salt, meat, cheese)。物質名詞を数えるときは、「数詞+普通名詞+of+物質名詞」の形にする(たとえば、a cup of tea)。
無冠詞の物質名詞は一般的な意味を表す。
the+物質名詞は特定の物質を表す。
抽象名詞
性質や動作など無形のもの、頭のなかで考えられる抽象的な概念を表す名詞。抽象名詞は数えることができないので、単数と複数の区別がない。また、不定冠詞をつけない。ただし、抽象名詞を複数にすると、単数のときと異なる意味を持ち、具体的なことや場所を表すことに注意が必要である(たとえば、height(高さ)と heights(高地), force(力)と forces(軍隊), good と goods(物品))。
無冠詞の抽象名詞は一般的な意味を表す。
the+抽象名詞は特定の性質や概念、動作を表す。
特別な名詞の用法
上記の名詞の区分は画一的なものではない。普通名詞化した抽象名詞、普通名詞化した物質名詞、抽象名詞化した普通名詞、集合名詞化した抽象名詞など様々な用法があり、注意が必要なことがある。
定冠詞をつける固有名詞
次の固有名詞には習慣として定冠詞をつける。
- 複数形固有名詞
- 山脈の名前:the Alps, the Himalayas
- 群島の名前:the Philippines, the West Indies
- 複数形の国の名前:the United States of America, the Netherlands,
例外 the United Kingdom
- 家族の名前: the Tokugawas (徳川家)
- 河川・運河の名前
the Thames, the Suez Canal, the Tone (the Tone River, the River Tone)
- 海洋の名前
the Japan Sea (the Sea of Japan), the Pacific Ocean
- of を含む地名
the city of Otsu (Otsu City), the bay of Tokyo (Tokyo Bay)
- 船、艦隊の名前
the Hakuho-maru (白鳳丸)
- 半島の名前
the Korean Peninsular, the Chita Peninsular
- 新聞、雑誌、書籍の名前
the Time, the Asahi, the Life
- 公共の建物
the Osaka Theater, the Imperial Hotel, the Red Cross Hospital, the Ministry of Education
- 道路の名前
the Hokuriku Way (注意:Street, Avenue, Squareの名前にはtheをつけない)
- 国民の総称を表す固有名詞
the English, the Chinese,
(国語一般にはtheをつけない。German and French)
- 特定の地名
the East (東洋), the West (西洋), the Far East (極東)
- 形容詞のつく固有名詞
the late Miss Asahi (故朝日嬢)
定冠詞をつけない固有名詞(まぎらわしい例)
上記の習慣上、定冠詞をつける固有名詞とまぎらわしい例を以下にあげる。これらには原則通り、定冠詞をつけない。
- 山・湖・湾の名前
Mt. Fuji, Lake Biwa, Ise Bay
- 公園・街路・広場・駅・空港の名前
Kennedy Avenue, Nagoya Station, Haneda Airport
- 市・府・県・国の名前
Nagoya City, Aichi Prefecture, Kyoto Prefecture, Izumo Province
- 島・岬の名前
Sado Island, Cape Cod
- 寺院・宮殿・橋の名前
Westminster Abbey, Buckingham Palace, London Bridge,
例外:the Vatican (バチカン宮殿)
(注意:日本の神社・仏閣にはふつうtheをつける。the Sumiyoshi Shrine, the Horyuji Temple)
- 学校の名前
Oxford University, Nagoya University
(the をつける場合: the University of Tokyo)
- 宗教の名前
Christianity, Buddhism
- 天体の名前
Mars, Venus, Mercury, Jupiter
- 曜日、月、祭日
January, Friday, Christmas
不定冠詞の用法
- 不特定の一つ(一人)を示す。
This is a pen.
- 「唯一でない、他にもあることを示唆する」ことの用法。
This is a sample of malicious programs.
- oneの意味として用いる。
I walked a kilometer.
- 種類全体を表す。
An owl can see in the dark.
種類全体をあらわすのは、次の3通りがある。
- A tiger is a fierce beast.
- Tigers are fierce beasts.
- The tiger is a fierce beast.
- 「〜につき」(= per) の意味を表す。
I go to hospital twice a week.
- 「同じ〜」の意味を表す。
Birds of a feather flock together. (類は友を呼ぶ。)
- someの意味として用いる。
We saw a light at a distance.
- 「ある〜」(= a certain)の意味。
In a sense, his opinion may be right.
- a+固有名詞=(〜のような人)(〜家の人)などを表す。
He will grow up to be a Dr. Yukawa [ a great physicist like Dr. Yukawa].
- a+物質名詞(抽象名詞)=普通名詞
- I drank a nice brandy.
- She is a great beauty.
定冠詞の用法
- 前に一度出た名詞につける。
(ただし、必ずtheをつけるとは限らない。 Have you ever seen a whale ? No, I have never seen a whale.)
- 前後関係から相手(読者)にそれとわかっている名詞につける。
- 修飾語によって限定された名詞につける。
Who is the person under the tree?
He is the president of our university.
(ただし、形容詞句や形容詞節がついても、必ずしもその名詞が限定されるとは限らない。
He is a professor of our university.)
- of によって限定される名詞には定冠詞をつける。
This algorithm is used to control the position of a rod.
- 種類全体を表す(the+単数普通名詞)。
The spider is a kind of insect.
- 唯一のものや方向を表す。
the sun , the moon, the earth, the world, the east, the north, the right など
- 計量を示す単位(by the+名詞)で「〜単位で」
Meat is sold by the pound.
He was hired by the week.
- the+形容詞=抽象名詞
He tried to achieve the impossible.
- 定冠詞を含む慣用句
in the morning, in the evening, in the night,
in the rain, in the air (空中で)
集合名詞の特別なもの:衆多名詞(群衆名詞)について
集合体を全体としてみないで、それを組織する個々のものを重視する場合、集合名詞を特に「衆多名詞(群衆名詞)」という。
衆多名詞は形は単数であるが、意味が複数なので、常に複数動詞と結ぶ。
衆多名詞には不定冠詞をつけない。また、複数形にもしない。
衆多名詞はふつうの集合名詞("(cf. *** )"のなか)を兼ねるものが多い。
His family are all well. (cf. His family is large.)
Most of the crew were saved. (cf. The crew consists of 30 sailors.)
The audience were moved. (cf. There was a small audience.)