[Japanese] 博士論文要旨(大東 忠保)

冬季寒気吹き出し時に大雪をもたらすメソスケールシステムに関する研究

大東 忠保

2001年1月14日から16日にかけて金沢平野周辺に大雪がもたらされた。これら の大雪をもたらした降雪システムの時間経過は以下の通りである。まず対流圏 中層のメソスケールの寒気核が、既に形成されていた日本海寒帯気団収束帯 (Japan-Sea Polar-Airmass Convergence Zone; JPCZ)に近づくとき、JPCZに沿 う帯状雲が急激に発達し北東に移動した。この北上により、JPCZに沿う帯状雲 は金沢平野の上空を通過した。このとき同時にJPCZ付近の下層で気圧の降下が 起こった。対流圏中層のメソスケールの寒気核がJPCZを通り過ぎると、JPCZに 沿う帯状雲は衰退し南下した。北上する前の位置付近までJPCZが南下すると JPCZは停滞し、金沢平野の海岸部に沿って20時間あまり停滞する降雪システム が形成された。本研究ではこれら一連の過程を数値シミュレーションと観測デー タの解析によって調べた。

まず対流圏中層の寒気核の通過に伴う気圧降下とJPCZの移動過程を、非静力学 雲解像モデルを用いて調べた。対流圏中層のメソスケールの寒気核がJPCZに近 づくとき、成層の不安定化によってJPCZに沿う上昇流が強化され、水平運動量 の鉛直輸送を増加させる。この水平運動量の鉛直輸送を含む移流が、上昇流の 中層域の非地衡風的な弱風域を維持する。JPCZに沿ったこの弱風域では寒気移 流が弱まり温位のリッジが発達する。そしてJPCZを挟んで温位の水平移流の非 対称が生じ、静力学的に下層の気圧場を変更する。その結果JPCZ北東側の気圧 降下と南西側の気圧傾度の増加が起こる。この気圧分布によって形成される JPCZを横切る方向の風速のコントラストの増加と、JPCZ北東側の気圧降下に伴 う非地衡風の高気圧性パターンによって、JPCZの北上がもたらされたことが発 散方程式の各項を調べることによって明らかにされた。一方、対流圏中層のメ ソスケールの寒気核がJPCZ上空を通り過ぎJPCZ北東側の低圧部が維持されなく なると、移流項のみが卓越しJPCZは南下する。その後対流圏中層のメソスケー ルの寒気核の影響の無い場においてJPCZは停滞した。このときJPCZ北東側に気 圧傾度の弱い領域が形成されており、これに伴って下層の一般場の風速は弱かっ た。この環境場の中で陸風が発達し、陸風前線付近において停滞する降雪シス テムが形成された。停滞する降雪システムは2本のバンド構造を示した。これ らの構造をドップラーレーダー、偏波レーダーおよび地上で行った降雪粒子の 接写観測データを用いて調べた。海側のバンドは陸風前線付近の強い上昇流に よって形成された霰から構成されていて強い降雪をもたらしていた。一方、陸 側のバンドは弱い上昇流中に形成された雪片によって形成されていた。この対 流圏中層の寒気核の通過に伴って発達しながら移動するJPCZに沿った帯状雲と、 海岸部に停滞した降雪システムによって、2001年1月14日から16日にかけて金 沢平野周辺の大雪がもたらされた。

本研究では、対流圏中層の寒気核の通過に伴うJPCZの応答としてJPCZ付近下層 の気圧が変化し、そのことによってJPCZの移動が決まっていることが明らかに された。またJPCZ停滞時にはJPCZがさらに小さい場を規定し、陸風が発達しや すい環境場をもたらすことがわかった。さらに陸風によって停滞した降雪シス テム中には、2本の平行なエコー強度のピークを持つ構造が発見された。

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