研究紹介(2010年度)

2008年9月2~3日に伊吹・鈴鹿山系沿いに形成された降水帯の維持・強化メカニズム

2008年9月2日から3日にかけて岐阜県西部の伊吹・鈴鹿山系沿いに激しい降水がもたらされた。 AMeDASにより観測された2日12時〜3 日06時(日本時)の18 時間での積算降水量の最大は425 mm に達した。気象庁C バンドレーダのデータ解析により、激しい降水は約13 時間にわたって停滞 した線状降水帯によってもたらされたものであることが示された。また、降水帯の一部では周囲 より強い降水が観測されていた。本研究の目的は2 台のX バンドマルチパラメータレーダの観測 データを用いたデュアルドップラー解析や、気象庁C バンドレーダのデータを用いて本豪雨を 引き起こした線状降水帯の維持メカニズムと、降水帯の一部で降水が強まったメカニズムを 明らかにすることである。

豪雨をもたらした線状降水帯は、南北に走向をもつ伊吹・鈴鹿山系に沿って形成され、 全長約100 km、幅20 km に及んだ。この線状降水帯が形成された原因は、相当温位355 K 以上の下層の南東暖湿流が伊吹? 鈴鹿山系にぶつかり強制的に持ち上げられて降水セルが 連続して発生し、その降水セルが高度1 kmより上層の南風に流されて伊吹・鈴鹿山系に 沿って北進したためであると考えられる。また、この線状降水帯が長時間維持された原因は、 降水セルの発生に寄与する下層の温暖湿潤な南東風と、降水セルを北進させる中層の南風 という気流構造が潮岬沖の低気圧の停滞により持続されていたためであると考えられる(図1)。

特に強い降水のあった岐阜県小津付近と上石津付近の強降水域のうち、2 台のX バンド マルチパラメータレーダの観測範囲内である上石津付近の降水域を対象としてデュアル ドップラー解析を行った。その結果、強降水域の下層では地形効果によるものと思われる 定常的な収束域が解析された(図2)。南北に走向をもつ伊吹? 鈴鹿山系と北北西-南南東に 走向をもつ養老山地のなす南側に開口した楔形の谷筋において、長時間にわたって下層の 南よりの風が収束することで形成されたと考えられる。この収束に対応して連続して上昇流が 形成され、上昇流への豊富な水蒸気の供給により、融解層より上層で大量の霰が形成され、 霰が落下して融解することで大量の大粒の雨滴が形成された結果として、同領域に長時間に わたって強い降水がもたらされたと考えられる。

fig1

図1. 2008年9月2日00時〜9月3日06時の名古屋でのウインドプロファイラにより観測された 水平風の鉛直プロファイルの時系列。長矢羽根は5 m s-1、短矢羽根は 2.5 m s-1を示す。

fig2a
fig2b

図2. 2008年9月2日17時30分の2台のXバンドマルチパラメータレーダの観測結果を用いて 得られたデュアルドップラー解析の結果。(a): 高度3 kmの反射強度(濃淡)と高度1 km の 水平風(矢印)を表す。コンタは300 mの等高線を示す。(b): (a)図中の線分ABに沿った 鉛直断面における反射強度(濃淡)と断面に沿う風(矢印)を示す。

台風0918号上陸時に中心付近で発生したレインバンドの構造と形成メカニズム

2009年9月30日に発生した台風18号は、10月8日の0時(日本標準時)から7時にかけて、 紀伊半島と愛知県周辺に激しい降水をもたらした。上陸した台風の周辺で見られる激しい 降水は、大気環境場や地表面状態、内部のメソスケール構造の形成や消滅に影響を受けると 考えられる。上陸した台風に伴う降水は、地形に関連したものが多く報告されているが、 地形以外の原因による降水に言及されている先行研究は少ない。本研究では、紀伊半島付近に 到達し、温帯低気圧化が進んでいるにもかかわらず、激しい降水をもたらした台風0918号の 中心付近に形成されたレインバンドの構造とその形成メカニズムを明らかにすることを 目的とする。

気象庁レーダーを用いて解析した結果、台風の中心付近に発生した降水域は、台風中心 とともに北上しており、紀伊半島から愛知県周辺にかけて多くの降水をもたらした。 降水域が紀伊半島上を北上していた期間、対流圏下層では台風の北側を回る強い東風が 吹いていた。地上気象要素の解析からこの東風成分の相当温位は350 K程度と非常に高い 値であった。このことから、下層の暖湿な東風が紀伊半島の東側斜面により強制的に持ち 上げられることにより、多量の降水がもたらされたと考えられる。気象衛星による赤外画像の 結果から、これらの降水をもたらした雲域は背の高いものではなく、この領域でも落雷は 観測されなかった。紀伊半島において背の低い雲から多量の降水がもたらされることは、 先行研究の結果と整合的である。

台風の北上に伴って、名古屋でも6時10分から20分の10 分間で20 mmを超える降水が観測された。 愛知県安城市に設置してあった名古屋大学Xバンドマルチパラメータレーダーによる観測では、 この降水をもたらしたレインバンドの20 dBZeで定義されるエコー頂高度は12 km以上と深い 対流であり、多くの落雷も観測されていた(図3)。気象庁名古屋地方気象台に設置されている ドップラーレーダーによる観測結果より、この深い対流域の起源をたどると、志摩半島北部の 海岸線付近で、紀伊半島を北上してきた背の低い降雨域と志摩半島東端付近で発生した背の 低い降雨域が併合することにより、伊勢湾上で急激に背の高い降水帯が形成されたことが 示された(図4)。このレインバンドは北東進していたが、その前面には高相当温位の南東風が、 後面では北西風が観測されており、レインバンド下層で収束していた。これらの結果から、 台風0918号にともなって愛知県周辺に多量の降水をもたらしたレインバンドは、紀伊半島付近に おける降水域の構造と異なり、降水域の合流により急激に深く発達した対流によりもたらされた ものとであると考えられる。

fig3

図3. 2009年10月8日4時42分の愛知県安城市に設置してあった名古屋大学Xバンド マルチパラメータレーダーにより観測された高度2 km断面における反射強度の 水平断面図(上図)とA-B断面の鉛直断面図(下図)。

fig4

図4. 2009年10月8日3時50分、4時10分、4時50分の名古屋地方気象台に設置された ドップラーレーダーにより観測された高度2 kmと7 km断面における反射強度の水平断面図。

北陸地方で観測された偏波パラメータと地上における固体降水粒子特性の比較

偏波レーダーを用いて雪や霰などの固体降水粒子の特性を理解するためには、粒子の大きさや 形状と偏波パラメータの関係を知る必要がある。本研究では、2008-2009年冬季に石川県金沢市の 金沢大学に設置された地上降雪粒子観測システムにより取得された粒子画像から粒子の特性を 求め、同県宝達志水町押水庁舎屋上に設置された名古屋大学Xバンドマルチパラメータレーダーで 観測された偏波パラメータ(レーダー反射強度Zh、レーダー反射因子差Zdr、偏波間位相差変化率 Kdp、偏波間相関係数ρhv)との比較を行い、両者の関係を検討した。 粒子の分類は、粒子画像から算出される複雑度(粒子の周囲長と等価円の円周長の割合)と孔の 有無から霰と雪(雪片)を判別した。本研究では、複雑度が1.21 未満で孔がない粒子を「霰」、 それ以外の粒子を「雪」として分類した。また、小さな粒子は複雑度や孔の判別が難しいため、 粒径が3 mmより小さな粒子は小粒子(氷晶)として解析対象から除いた。そして、各粒子の 種類(霰、雪)、粒径、形状、体積および1分間の積算粒子数と積算体積を計算した。側面から 撮影されている各粒子の面積から等価面積円を仮定して各粒子の体積は計算した。そして、 雪と霰のそれぞれに対して 1 分毎に積算することで積算体積とした。さらに、観測された 粒子の種類(卓越粒子:雪もしくは霰)とその代表的な特性(粒径・形状)を1分毎に設定した。 地上観測点と上空のレーダーの観測範囲を一致させるために、上空の風向・風速、想定される 粒子の落下速度を用いて、地上観測点に粒子が落下する可能性のある範囲を最低仰角のPPI格子 面で規定した。

解析対象期間は2009年1月13日19時(日本時)〜21時、1月15日12時55分〜15時、2月16日21時〜 21時30分であり、この期間中に霰卓越期間として4事例、雪卓越期間として4事例が観測された。 図5に1月15日12時55分〜15時の間の偏波パラメータと地上粒子観測の結果の時系列を示す。 地上粒子観測の結果から、霰卓越期間には粒径が3〜6 mmの紡錘形ないし丸型の粒子が見られた。 この時、各偏波パラメータの示した範囲は、Zh が19.9〜31.2 dBZe、 Zdrが-0.6〜-0.1 dB、Kdpが-0.3 〜 0.1 °/km、ρρhv が 0.99 以上であった。雪卓越期間には粒径が6 〜15 mmの雪片が観測された。各偏波パラメータの 示した範囲は、Zhが14.9〜27.2 dBZe、Zdrが-0.5〜-0.2 dB、 Kdpが-0.2〜 0.3 °/km、ρρhv が0.99 以上であった。霰卓越期間中、 地上で観測される霰粒子の粒径が大きく(小さく) なるとZh の値は大きく(小さく) なり、数濃度が大きく(小さく) なるとZh の値は大きく(小さく) なる傾向が 見られた。また、大粒径の粒子が縦長(丸形) であるとZdrの値は小さくなる (0 dBに近づく) ことも示された。これはZh、Zdrの算出式に整合的な 結果である。一方、霰卓越期間におけるZhの最小値が20 dBZe程度で あった。降水粒子の判別を行う場合、霰判別を行うためのZhの下限値の見直しが 必要であると考えられる。また、雪卓越期間におけるZdrおよびKdpが 正の値ではなく、ほぼ0に近い値を示していた点も興味深い結果である。このことは雪片が 横長ではないことを示していると考えられる。

fig5

図5. 2009年1月15日12時55分〜15時00分の偏波パラメータ(上図・中図)と地上観測結果 (下図)の時系列。上図の実線はZh、破線はZdr、中図の実線は ρhv、破線はKdpの5分毎の変化を示す。下図の橙色の棒グラフは 霰の、青色棒グラフは雪の1分間積算粒子数の時間変化を示す。下図の実線は霰の、破線は 雪の1 分間積算体積の時間変化を示す。

梅雨期のメソ対流系層状性降水域における氷晶の粒径分布の鉛直観測

梅雨期に発生するメソ対流系は、高湿潤場で形成される深い対流システムであり、 下層からの高相当温位の空気塊の流入によって維持され、しばしば顕著な降水を もたらす。この維持・形成メカニズムに果たす雲微物理過程を理解するために、 粒径が500 μm未満の氷晶を直接観測した研究は無い。本研究では、2008年6 月 12 日に沖縄島において雲粒子ゾンデHYVIS(HYdrometeor VIdeoSonde)を用いた 氷晶の直接観測を行い、氷晶の画像データを解析して、メソ対流系の層状性降水域の 氷晶の形状、数濃度と粒径分布の鉛直分布を示し、氷晶の成長過程を考察した。

本研究で対象としたメソ対流系は、梅雨前線に沿って東シナ海上で発達しながら東進し、 沖縄島上空にその層状域が広がった。融解層高度は高度4 km付近に位置していた。HYVIS 観測により得られた氷晶の画像から、氷晶の形状を針状(Needle)、柱状(Column)、 板状(Plate)、柱状と板状の特徴をもつもの(Column and Plate)、雪片(Aggregate)、 判別不能(Undefined)の6種類に分け、高度毎に各形状の粒子数を求めた。また、観測 された全ての氷晶の最大粒径(10 μm刻み)から高度毎の粒径分布も求めた。

図6に氷晶の最大粒径が100 μm未満と100 μm以上の氷晶の形状別数濃度の 鉛直分布を示す。観測されたほとんどの粒子の形状はPlateであることが見て 取れる。これはHYVISに併せて行われた湿度観測より、氷飽和度が10%以下と 低い値であったためであると考えられる。100 μm未満(以上)の氷晶の 数濃度のオーダーは105 m3(104 m3)であることも 見て取れる。また、ほとんどのUndefined粒子は粒径が10〜20 μmの小さな 氷晶であった。本研究におけるHYVIS観測中、過冷却水滴、および過冷却水滴を 捕捉することで形成された雲粒付氷晶は観測されなかった。

氷晶の粒径分布曲線は、切片N0と傾きΛにより規定される。 HYVIS観測より得られた粒径毎の粒子数に対して、マーシャルパルマー分布に よる指数関数近似を行い、N0とΛの値を高度毎に求めた (図7)。そして、両者の鉛直プロファイルから各高度における氷晶の成長過程を 推定した。高度12〜10 km、8〜7 km、6 km以下では高度が減少するとともに N0、Λとも減少している。このことから、粒子数が減少する とともに大粒径の粒子が出現していると推定できるため、凝集成長が支配的で あると推定できる。高度10〜8 km、7〜6 kmでは高度が減少するとともにN0が 増加し、Λがほぼ一定である。このことから、昇華凝結成長により粒径が 大きくなっていると推定できる。

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図6. 氷晶の最大粒径が100 μm未満(左側)と100 μm以上(右側)の氷晶の 形状別数濃度(値はグラフ下部)を高度250 m毎の鉛直分布として示す。棒グラフの 濃淡が氷晶の形状を示す。粒子の形状として、針状(Needle)、柱状(Column)、 板状(Plate)、柱状と板状の特徴をもつもの(Column and Plate)、判別不能 (Undefined)を示している。実線は同時に観測された氷飽和度、破線は水飽和度 (値はグラフ上部)を表す。

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図7. 高度4.5〜12 kmの間のHYVIS観測より得られた粒径毎の粒子数に対して、 マーシャルパルマー分布による指数関数近似を行うことで計算された粒径分布の 切片N0(左図)と傾きΛ(右図)の鉛直プロファイル。

西部熱帯太平洋上において海洋地球研究船「みらい」により観測された降水セルの特徴

降水システムにおける対流性降水域の最小構成単位である降水セルの一般的な特性を 調べるためには、降水イベント毎の事例解析ではなく統計的な解析を行う必要がある。 西部熱帯太平洋上における降水セルの統計的な特徴を調べるために、海洋研究開発機構 (JAMSTEC)の海洋地球研究船「みらい」MR08-02航海において、北緯12.0°、東経135.0°で 行われた定点観測期間に得られたドップラーレーダーデータと高層気象観測の結果を用いて 降水セルの統計的な特徴についての解析を行った。定点観測期間は2008年6月6日から27日の 22日間であった。本研究では、降水セルの特徴として降水セルの水平スケールを規定する 「高度2 kmにおける面積」、鉛直スケールを規定する「30 dBZeエコー頂高度」 を示す。3次元降水セル検出アルゴリズムを使用することで検出された降水セルの総数は 13654 個であった。

図8に観測期間中の全降水セルに対する30 dBZeエコー頂高度の積算確率密度 分布を示す。観測期間中の融解層高度(0℃高度)の平均は4.9 kmであることから、3 0 dBZeのエコー頂高度が0 ℃高度 + 1 km(5.9 km)以下である降水セルの 割合は84%であった。すなわち、観測された降水セルの大部分は融解層高度付近までしか 到達しない背の低いものであった。融解層高度から高度 8 kmの間に30 dBZe エコー頂をもつ降水セルの割合が急激に減少していることから、先行研究における海洋性 降水セルの特徴と本研究の結果が整合的であると考えられる。図9に観測期間中の全降水セルに 対する高度2 kmにおける面積の確率密度分布を示す。高度2 kmにおける降水セルの平均面積は 34.8 km2、頻度が最大となる面積は21 km2 であったことから、平均 面積よりも小さな降水セルが多く存在していることが示された。

「みらい」で取得された3時間毎のラジオゾンデ観測の結果から、相対湿度の鉛直プロファイルの 時系列を得ることができる。定点観測期間中の前半には対流圏下層は東風場で乾燥していたが、 後半には西風場に変わって高い高度まで高湿度場となった。大気環境場の変化と降水セルの 特徴の対応を検討するために、対流圏中層における湿度の指標として高度3、4、5 kmの相対 湿度、大気の安定度の指標となる高度0.5 kmと6 kmの間の相当温位の鉛直傾度、対流有効位置 エネルギー(CAPE)を用いて大気環境場の場合分けを行い、それぞれに対応する降水セルの 特徴を調べた。高度3 kmにおける相対湿度が低いほど、30 dBZeエコー頂が低く なる傾向が見られたが、高度4、5 kmにおける相対湿度に対する30 dBZeエコー 頂高度の系統的な変化は見られなかった。また、各高度における相対湿度が低いほど、高度 2 kmにおける面積が小さい降水セルが多く存在することが示された。相当温位の鉛直傾度に 対しては、30 dBZeエコー頂高度の系統的な変化は見られなかったが、鉛直傾度が 大きいほど、高度2 kmにおける面積が小さい降水セルが多く存在することが示された。CAPEの 値に対しては、30 dBZeエコー頂高度、高度2 kmにおける面積とも系統的な変化は 見られなかった。

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図8. 観測期間中の全降水セルに対する30 dBZeエコー頂高度の積算確率密度分布。

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図9. 観測期間中の全降水セルに対する高度2 kmにおける面積の確率密度分布。

CReSS雷モデルを用いた落雷シミュレーション

雲解像モデルCReSSに雷モデルを搭載し、雲内放電、雲間放電、落雷などをシミュレーション できるようになった。雷モデルは雲物理過程に依存して電荷分離を行うメカニズムと、蓄積 された電荷量から発雷させる発雷メカニズムに分けられる。さらに、発雷メカニズムは雷放 電路の進展プロセスを表現する第1段階と、雷雲内の電荷中和プロセスを表現する第2段階に 分けられる。このうち、第1段階のパラメータについての感度実験の結果は先行研究で行われて いるが、第2段階のパラメータについての感度実験は不十分である。

第2段階である電荷中和プロセスにおいて、感度実験を行うパラメータは次の3つである。 発雷時に電荷を中和する領域を決める「中和可能電荷領域閾値(ρchan)」、 発雷後も中和されずに残る電荷量を決める「中和不可電荷密度(ρneut)」、 発雷時に中和される電荷の割合を決める「中和割合(fρ)」である。モデル内の各格子点 における電荷量をQxとした時、Qx > ρchan である 場合には、その格子点において電荷が中和される(放電経路となる)可能性があり、この格子点 で中和される電荷量は(Qx - ρneut) × fρ となる。 本研究では、中部電力の落雷位置標定システム(Lightning Location System: LLS)により 愛知県周辺で落雷が観測された事例を対象として、CReSS雷モデルを用いて、前述の3つの パラメータの感度実験を行い、落雷数や落雷の極性に対する敏感度を調べた。

図10に2007年6月8日19:40から19:50の間に愛知県周辺で観測された雷雲を対象として行われた シミュレーション実験における全落雷回数に占める負極性落雷の割合を示す。この実験では ρneutの値を固定し、ρchanとfρの値に対する感度が 得られた。観測された負極性落雷の割合は太実線で描かれており、感度実験の結果はいずれも 観測された落雷極性を適切に表現していると考えられる。また、この結果は、落雷極性に 対してρchanとfρの感度が大きくないことも示している。

別の感度実験の結果より、ρchanおよびρneutの値を変化させても 落雷回数はほとんど変わらなかったことが示された。一方、fρの値を増加させると 落雷回数は顕著に減少した。また、全雷放電回数に占める落雷回数の割合は、これらの パラメータの変化による影響をほとんど受けなかった。このことは、再現された雷雲内の 電荷分布パターンに対する電荷中和プロセスを規定する3つのパラメータの値の影響は 小さく、雲物理過程に依存する電荷分離量に強く影響を受けることを示唆している。 すなわち、適切な条件(水平・鉛直解像度など)を用いて十分に発達した雷雲を再現 できれば、CReSS雷モデルは電荷中和プロセスのパラメータの影響をあまり受けずに、 落雷回数や落雷極性などを適切に表現できることが示された。

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図10. 2007年6月8日19:40から19:50の間に愛知県周辺で観測された雷雲を 対象として行われたシミュレーション実験における全落雷回数に占める 負極性落雷の割合。ρneutの値を固定し、ρchanと fρの値に対する感度を示している。太実線はLLSによる実測値を示す。


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