「温帯低気圧に変わった台風11号と秋雨前線による東北地方の豪雨」


2007年9月18日 


 秋田県、岩手県など東北地方北部で9月17日から18日にかけて大雨が発生し、北上川などの河川の氾濫や土砂崩れによる災害が起こった。この大雨は温帯低気圧に変わった台風11号と停滞している秋雨前線によってもたらされたと考えられる。台風が温帯低気圧に変わったと聞くと、危険性が小さくなったように思われるが、それは間違いである。むしろ危険性が一つ加わったと考えるべきである。特に梅雨前線や秋雨前線があるときはそれが顕著になる。また、それ以外にも上空に大規模な渦がある場合も危険な状態になる。

 温帯低気圧と台風などの熱帯低気圧は異なる特徴と性質を持っており、温帯低気圧の特徴についてある基準を満たすようになったとき温帯低気圧になったと気象庁は発表する。しかし実際は熱帯低気圧があるとき突然温帯低気圧に化けるのではなく、その変化は連続的で変化にはっきりとした境目があるわけではない。台風が本州などの中緯度に達すると多かれ少なかれ、温帯低気圧の特徴を持ち始めるので、温帯低気圧化に伴う危険性の増大は、中緯度に来たときから始まると考えるべきである。台風が温帯低気圧化したと発表される時刻はあまり本質的ではない。その時刻の前だけでなく、温帯低気圧化した後からも豪雨や強風への注意が必要である。特に今回の豪雨のように前線があるときは、台風と前線により豪雨がもたらされることがしばしば起こる。そのような例として顕著なものに、2000年9月の東海豪雨や2004年10月の近畿地方の豪雨があげられる。強風については2004年9月に北海道に強風をもたらした台風18号の例がある。

 気象学では水蒸気を水としてだけでなく、熱としても扱うことがある。気体の水蒸気が雲粒という液体になるとき、熱エネルギーを放出するからである。この熱エネルギーがもくもくと発達する積乱雲をつくり、さらにその積乱雲の集団が熱帯低気圧を発生させる。ここで積乱雲がもくもくと発達するためには、水蒸気が凝結を始める高さまで持ち上げてやらなければならないことに注意しよう。水蒸気は凝結して雲粒を作り始めるまでは熱を出せないのである。南の海上では暖かい海からの水が蒸発し水蒸気が増えるだけでなく、海の熱が直接大気を暖めて、雲粒が出来始める高さまで空気を持ち上げてくれる。ところが中緯度に来ると陸地や温度のあまり高くない海のうえで、水蒸気は凝結しないでそのまま流されてしまう。一方、温帯低気圧は水蒸気がなくても発生する。この点が熱帯低気圧と決定的に異なる点である。すなわち台風が熱帯低気圧の性質を失って、温帯低気圧の性質を持ち始めるということは、水蒸気を持ち上げる新たなメカニズムを得たということである。この水蒸気を持ち上げるメカニズムは前線があると非常に効率的に働く。台風が弱まって降水は弱くなるが、水蒸気は弱まった台風とともに移動して、前線のところに来ると新たに水蒸気を凝結させるメカニズムを得て、豪雨を形成するのである。これが温帯低気圧に変わったときに新たに加わる危険性の一つである。

 梅雨前線や秋雨前線があるところに台風やその温帯低気圧化したものがあるときは、豪雨に注意が必要である。今回の東北地方北部の豪雨はその典型の一つである。この豪雨はさらに東北地方の山脈による降水の強化も一つの要因と考えられる。ただ、地形と降水の関係は非常に多様で複雑であるので、この問いに答えるためにはかなりに研究が必要だろう。

(2007年9月21日)



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