「名古屋に降る雪」
2007年3月11日
やはり天気は人知を超えているのだろうか。記録的な暖冬で、桜花の開花が例年より特に早いことが期待されていたが、3月中旬にさしかかった11日、名古屋市内で雪が舞った。車を運転していたら窓に白いものがあたった。そう思っていたら、小さなあられが降ってきた。あられが降るということは、しっかりした対流をもつ雪雲が名古屋上空にさしかかっていたことを表している。折しも名古屋国際女子マラソンが市内で開催されていた。選手も応援する人も、寒い中での競技はさぞたいへんであっただろう。
この季節に降る雪を「なごりの雪」或いは「忘れ雪」という。これは春を表す言葉である。(ちなみに冬のはじめに降る雪を「風花」といい、これは冬を表す。)今日の雪はなごり雪と言うには強すぎる雪のようだ。夜には岐阜県の一部には大雪注意報が出された。日本海側ではほとんど雪がなかったのに大雪となりそうだ。この時期に雪が降らないわけではない。しかしこの冬のような極端な暖冬で、この時期に雪が降るのは予想外のことと言わざるを得ない。
わが国の雪は大きく分けて、低気圧に伴って降る雪と、西高東低の気圧配置のときに北西季節風の寒気によってもたらされる雪がある。関東平野に降る雪はほとんど前者の雪である。一方で日本海側の地方では、ほとんどの雪が後者である。日本列島には脊梁山脈があり、それによって日本海側の雪と太平洋側の雪のように分けられる。
それでは名古屋に降る雪はどのような気象がもたらすのであろうか。名古屋を含む濃尾平野は太平洋側にあるので、関東平野と同様に低気圧が雪をもたらしても不思議ではない。ところが日本の地形図をよくみると、濃尾平野の北西で脊梁山脈がとぎれていることがわかる。このため濃尾平野の雪は日本海側の雪と同じように、北西季節風によってもたらされるのである。
それでは日本海側に大雪が降るときには、濃尾平野で必ず雪が降るかというとそうではない。日本海側が大雪でも濃尾平野に雪が降ることはまれである。濃尾平野で、あるいは名古屋で雪が降るためには、北西季節風が卓越するときで、かつ特別の条件が整わなければ雪が降らない。この条件が整って、名古屋に大雪が降るのは一冬に数回しか起こらない。しかしながら一旦そのような条件が整うと、市内の交通が麻痺するほどの大雪となる。
今年の冬は暖冬で、全国的に少雪であった。名古屋では雪が舞うことはあったが、市内に積雪がもたらされることはなかった。図1は気象庁レーダーで、雪または雨が降っているところを表している。日本海側の若狭湾から降水が濃尾平野に進入している様子がみられる。今日の雪はそのようなまれにしか整わない条件が、皮肉にも春先に、しかも国際マラソンの日に整ってしまった結果、濃尾平野にもたらされたのである。
(2007年3月11日)
図1: 2007年3月11日21時(日本時間)の気象衛星MTSATの赤外雲画像。
図2: 2007年3月11日23時00分(日本時間)の気象庁レーダー画像。
図3: 雲解像モデルCReSSによる2007年3月11日23時(日本時間)の予報。カラーレベルは降水強度。赤い等値線は地上気圧分布。矢印は地上風である。このような大雪を予測することは容易ではないが、地形を精度よく取り入れた雲解像モデルでは、今日の名古屋の雪(あるいは降水)を精度よく予測している。
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