「春一番」

2007年2月14日

 「春一番」というのは冬の終わりから春のはじめの頃、発達した温帯低気圧に伴って吹く暖かい南風のことを言う。気象庁は、「立春から春分までの間に、広い範囲で初めて吹く、暖かく(やや)強い南よりの風」のように定義している。 「春一番」は、その名前の穏やかさとはうらはらに、しばしば強風災害や雪崩などの災害を引き起こす危険な気象である。

 冬から春に変わる頃、日本付近には北側の寒気と南側の暖気のせめぎ合いが起こる。温帯低気圧というのはそのようなせめぎ合いの結果発生・発達するもので、春一番は特に発達した低気圧によってもたらされる。通常、このような低気圧は明瞭な寒冷前線や温暖前線を伴っていることが多い。前線の南側には暖気があり、それが強い南風となる。これが「春一番」である。一方で、その北側には寒気があり、その先端部が寒冷前線である。寒冷前線は風と気温が急変するところで、しばしば積乱雲が発達する。積乱雲は強風や強い雨をもたらし、場合によっては竜巻やダウンバーストなどの突風をもたらすことがある。寒冷前線が通過した後は、寒気の領域にはいるので気温が急に下がるのである。

 長崎県壱岐市郷ノ浦町に「春一番の碑」があることは、あまり知られていない。「春一番」とはもともとこの地方の漁師の用いていた言葉が広がったものである。春先に吹き荒れる強風で、多くの漁師が海難事故で亡くなった。この碑はその慰霊の碑であり、海難事故が起こらないことを祈る碑である。もともと「春一番」という言葉には、春の使者のような穏やかなイメージはない。春一番は吹き荒れて大きな災害を引き起こす、危険でおそろしい嵐の名前なのである。

 2月14日、今年の春一番が観測されたと気象庁が発表した。バレンタインデイストームとでも呼ぼうか。天気図から温暖前線と寒冷前線を伴った低気圧が日本付近を通過していることが分かる。気象衛星から、寒冷前線に沿って発達した雲がみられる。その付近では強い降水がレーダーで観測されている。この春一番に伴って、八甲田山では雪崩が起こり、遭難者がでた。また、和歌山や静岡をはじめとして日本各地で突風による災害が発生した。明日は北日本では雪が強まるようだ。「春一番」が吹くときは、天気に注意が必要である。

(2007年2月14日)

図1: 2007年2月14日18時(日本時間)の気象庁天気図。




図2: 2007年2月14日23時(日本時間)の気象衛星の赤外雲画像。寒冷前線に伴う雲帯が、関東地方の南方、太平洋上にみられる。




図3: 2007年2月14日20時50分(日本時間)の気象庁レーダー画像。




図4: 雲解像モデルCReSSによる2007年2月14日19時(日本時間)の予報。カラーレベルは降水強度。赤い等値線は地上気圧分布。矢印は地上風である。




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