竜巻 ― 発生予測は積乱雲の研究から


坪木和久 (名古屋大学地球水循環研究センター) 


(未発表ですが、せっかく書いたので)

 2006年11月7日、北海道佐呂間町でフジタスケール3の強い竜巻が発生した。被害の状況から、この竜巻はきわめて局所的で短寿命あったにもかかわらず、国内で発生する最も強力な竜巻の一つであったことがわかった。その一月半前には延岡市で、竜巻による列車横転事故が起こった。このように甚大な被害をもたらす竜巻が続いて発生していることから、竜巻の予測について関心が高まっている。人的被害を軽減するためには発生予測が不可欠である。竜巻の予測は可能だろうか。また、それにはどのような方法が現実的であるだろうか。

 竜巻は台風のように遠方からやってくるものではない。佐呂間町の竜巻もそうであったように、忽然とそこに現れるのである。地球の大気にはそのようにして竜巻を発生させるメカニズムが備わっている。竜巻は発生しやすい地域とそうでない地域はあるが、国内ではどこで発生しても不思議ではない。そのように発生する竜巻は、残念ながら現在の技術では予測することも観測することもほとんどできないと考えてよい。しかしながら、これまでの研究で強力な竜巻はある種の発達した積乱雲によって生みだされることがわかっている。竜巻の予測は、竜巻そのものではなくその親となる危険な積乱雲を予測することで、間接的にできると考えられる。

 それでは危険な積乱雲を予測するためにどのような方法があるだろうか。一つはドップラーレーダーによる危険な積乱雲の検出である。竜巻を発生させる積乱雲の多くは、その中に雲と同じくらいの大きさの渦をもっている。レーダーで強い渦を持つ積乱雲を観測し、その移動方向を知ることによって、危険な積乱雲の接近を予測するのである。ただしこの方法では、積乱雲が発達してからでないと予測ができないので、竜巻の危険性を予測できる時間は10分〜30分程度である。

 もう一つの方法は、近年発達がめざましい超高速コンピューターで積乱雲の発生や動きをシミュレーションする方法である。雲が発生する前の温度や湿度、風向・風速などの大気の状態を入力し、コンピューターのなかで大気中に発生する積乱雲を事前に作り出して予測するのである。この方法では雲の物理や大気の運動を詳細に計算しなければならないので、計算はおそろしく膨大なものとなる。このような予測法はまだ実験的段階であるが、近い将来には6時間ほど先の予測が可能になると考えられる。

 竜巻の予測には、これら2つの方法を組み合わせて精度をあげることが不可欠である。いずれの方法でも竜巻そのものではなく、その親となる積乱雲を予測するので、どのタイプの積乱雲がどのように竜巻を発生させるのかが明らかでなければならない。これまでの研究で、ある強さ以上の渦を持つ積乱雲は、竜巻と関係あることがわかっている。しかしながら、未知のタイプの積乱雲は多数あり、また積乱雲の竜巻を発生させるメカニズムについても未解明な点が多い。竜巻予測には積乱雲を研究し、積乱雲と竜巻の関係を明らかにすることが不可欠である。そのうえで竜巻を発生させる危険な積乱雲を予測する方法を確立し、間接的に竜巻の発生を予測することが、実現可能でかつ有効な方法である。


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