第21回名古屋大学防災アカデミー

台風と竜巻の話

―地上におけるもっとも激しい気象を如何にコンピューターで再現するか―

坪木和久(名古屋大学地球水循環研究センター)

日時:2006年7月4日
場所:名古屋大学環境総合館1階レクチャーホール



5. おわりに

 大陸の東に位置する日本はさまざまな激しい気象にさらされている。本稿にあげたような台風や梅雨に伴う局地豪雨、発達した積乱雲のもたらす竜巻や降雹などのほかにも、冬季の季節風に伴う大雪や低気圧に伴う強風や大雨もある。例えば寒気流中の降雪雲などは比較的小規模の積乱雲によって構成されている。ここでは詳細を示さないが、これらも重要な雲解像モデルの対象である。

 本稿で示したように雲解像モデルCReSSは、さまざまな雲・降水システムや気象、水循環の研究に利用することができる。また、これを用いて災害をもたらすような気象の予測など防災に役立てることも可能である。名古屋大学地球水循環研究センターの気象学研究室では、CReSSを用いて毎日の気象の予測実験を2004年12月から継続して行っている( http://www.rain.hyarc.nagoya-u.ac.jp/CReSS/fcst_exp.html)。またCReSSはソースコードレベルで公開しており、誰でも利用することができ、また商業利用も可能である。これを用いて実用的な高解像度の気象予測を行うことも可能である。実際にその研究は、すでに名古屋大学といくつかの民間企業の間で始まっている。そしてその成果として、日本全国を水平解像度5kmという非常に高い解像度の気象予測がすでにインターネットで閲覧可能な段階にまで到達している。

 気象の予測として明日や1週間後の天気予報はもちろん重要である。一方で、洪水や土砂崩れといった災害をもたらすような豪雨については、数時間先にそれが起こるのかどうかを予測することがもっとも重要である。3時間のあれば防災対策をとることが可能であろう。12時間あればダムや河川の流量調整を行なうことができる。実際の生活の上では、数時間(6〜12時間程度)先に、自分がいるところに、雨が降るかどうかということがもっとも切実な問題なのである。さらにそれが豪雨かどうかということは財産や生命に関わる問題にさえなるのである。

 たとえば2000年9月11日に発生した東海豪雨のような雨を予測できるようになるだろうか?我々は雲そのものを計算機で作ることができるようになってきた。その応用として豪雨の高精度な量的予測は、十分現実的な領域に入ったと考えられる。近い将来、計算機がさらに高速化し、雲解像モデルへの入力データの精度が十分上がれば、局地的な豪雨や積乱雲に伴う様々な危険な気象を、量的に精度よく予測できることが可能になるであろう。我々はそれに向けて、雲解像モデルの高度化を推進していきたいと考えている。



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