竜巻シンポジウム
−わが国の竜巻研究の今後の課題と方向性−
「積乱雲と竜巻のシミュレーション実験」
坪木和久
(名古屋大学地球水循環研究センター・地球環境フロンティア研究センター)
6. まとめと今後の課題
講演内容のまとめ
- 超高解像度気象シミュレーションを行うため、雲解像モデルCReSS (Cloud Resolving Storm Simulator) を開発している。これを用いて1999年9月の愛知県豊橋市の竜巻と2006年9月の台風0613号とそれに伴うスーパーセルおよび竜巻のシミュレーションを行った。また、2006年12月の北海道佐呂間町の竜巻についても初期的な実験の結果を示した。
- 1999年の豊橋の竜巻と2006年の延岡の竜巻は、ともに台風の東側の外域帯(アウターレインバンド)で発生した。豊橋市の竜巻では、スーパーセルが再現され、スーパーセルの南端部で次々と発生する竜巻がシミュレーションされた。
- T0613のレインバンドがスーパーセルの列で構成され、それらの積乱雲の一つが延岡の竜巻をもたらした親雲(メソサイクロンを含む)となっていることを示した(竜巻予測の可能性)。
- 2006年の延岡市の竜巻についての水平解像度75mの実験で、レインバンドを構成するスーパーセルの一つに「釣り針状構造」がみられ、その付近に竜巻がシミュレーションされた。その直径は300〜400m、渦度は0.9/s、気圧偏差は24hPa 以上であった。
- 2006年11月の北海道佐呂間町の竜巻についても予報実験を行った。この竜巻をもたらした積乱雲は複数のセルを含む対流雲あった。水平解像度70mの実験では渦度0.1/s程度の小規模な渦が再現された。これは佐呂間町の竜巻に対応するものではないが、高解像度のシミュレーションをすることで、竜巻の再現可能性を示唆した。
竜巻研究の課題と方向性
- 雲解像モデルを用いて、高解像度の計算をすることで竜巻そのもののシミュレーションが可能になりつつある。
- 地球シミュレータを用いて、より大きな計算領域でより高解像度の実験を行い、大規模場(温帯低気圧、寒冷前線や台風など)、積乱雲、さらに竜巻そのものをシミュレーションする。これにより竜巻の発生メカニズムや雲との関係などを解明することが期待される。
- より多数の竜巻の事例について実験し、ドップラーレーダー観測との比較・検証が必要である。
- 積乱雲と竜巻の関係を明らかにし、雲を予測することで竜巻ポテンシャルを予測する方法を確立する。
- 竜巻の予測にはモデルとレーダの相補的利用が不可欠。
- 地球温暖化に伴い竜巻の被害はどのように変化するのか。雲解像モデルを用いて、この問題について定量的なアプローチが必要である。