卒業論文要旨(平村 泉)

線状降水システムを構成する降水セルの特徴
−甑島ラインを例として−

平村 泉

2002年7月1日0705 JSTから0740 JSTにX-bandドップラーレーダーにより、九州西部の甑島列島から北東方向に伸びる線状降水システムが観測された。この線状降水システムは甑島ラインと呼ばれている。甑島ライン周辺では、下層に湿潤で対流不安定な大気があり、南西風が卓越していた。観測された甑島ラインは降水セルで構成されており、最長で25 kmの長さになった。本研究では、甑島ラインを構成する降水セルに注目して、個々の降水セルの特徴を調べた。

この甑島ラインの形成に寄与した降水セルは11個あった。降水セルの水平スケールは5 kmで鉛直スケールは5 km以下だった。11個の降水セルのうち9個は甑島上空で発生し、2個は甑島北東側海上で発生した。個々の降水セルは約11 ms-1の移動速度で北東方向に移動し、その寿命は5〜45分だった。11個のうち6個は10分以下の短い寿命だった。

45分間持続した一番長寿命の降水セルは甑島上空で発生し、北東方向に11 ms-1で移動した。この降水セルは発生から消滅までの間に、甑島の北東側海上で二度再発達した。30分間持続した二番目に長寿命の降水セルは甑島上空で発生し、北東方向に11 ms-1で移動した。この降水セルは発生から消滅までの間に、甑島の北東側海上で一度再発達した。その他の20分以下の短寿命の降水セルは再発達しないで消滅した。このことから、再発達した降水セルは、再発達しなかった降水セルに比べて長く持続できると考えられる。長寿命の降水セルが再発達するとき、その東側には衰弱期の降水セルが存在していた。このことから、衰弱期の降水セルからの発散流と南西からの一般風が作る収束によって上昇流が発生し、西側の降水セルが再発達したと考えられる。その結果、西側の降水セルは長時間持続できると考えられる。

本研究により、短寿命の降水セルや、衰弱期の降水セルの影響を受けて再発達したと考えられる長寿命の降水セルが甑島ラインを構成していたことが分かった。こうして、降水セルから甑島ラインが形成されるメカニズムを考える手がかりを示すことができた。
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