中国大陸から東シナ海の梅雨前線付近で発生する
クラウドクラスターの出現特性

坂本 晃平

梅雨前線帯で発生するメソスケール対流システム(MCS)の発生・維持過程を東アジアで統一的に理解するため、GMSの赤外輝度温度データを用いて1998年から2002年の5年間の6,7月に中国大陸から東シナ海で発生したクラウドクラスター(CC)を追跡し、特に梅雨前線付近で発生したものについてそれらの出現特性を調べた。

対流活動の日変化の度合いは平地、山岳域、海上といった地形によって異なることが知られているが、多量の雨をもたらすCCの出現特性と地形の関連性はこれまで調べられていない。そこで、梅雨前線帯でも特にCCの発生の多い中国東岸から東シナ海の領域を地形によって、長江中下流域、東南丘陵、東シナ海北部(北緯29度以北)、東シナ海南部(北緯29度以南)の4領域に区分し、その領域毎にCCの出現特性を調べた。CCの追跡においてはその検出と同定がアルゴリズム化され、2044個のCCが自動的かつ客観的に追跡された。各領域における梅雨前線付近のCCの出現特性は以下の通りである。

大陸上では長江中下流域と中国の南東岸に沿う東南丘陵では出現特性が異なっていた。7月の長江中下流域と6,7月の東南丘陵では発生数が顕著に日変化し、17〜19時がピークであったが、6月の長江中下流域では発生数の日変化は弱かった。東南丘陵のCCは平均的に長江中下流域のものより短寿命で、最大面積も小さかった。

東シナ海では北部と南部で出現特性が異なっていた。6,7月を通して、北部では日変化が顕著で早朝の6時をピークに多く発生したが、南部では発生数の日変化は弱かった。北部のCCは大陸上の2領域のCCよりも平均的に長寿命で最大面積も大きかった。南部のCCは平均的には小さく短寿命だが、午前に梅雨前線に沿ってほぼ同時に発生、発達し最大面積が大きくなるものが見られた。

各領域でのCCの発生数の日変化は、気象庁全球客観解析データから求めたそれぞれの領域の地上気温の日変化によく対応していた。さらにその地上気温の日変化は梅雨前線に伴う雲の量と対応しており、雲の量によって日射量が変化し、それが地上気温の日変化を決め、CCの発生の日変化を決めるという過程が示唆された。

梅雨前線帯で発生数するMCSの発生・維持過程を考える際、地形や梅雨前線に伴う雲量といった環境条件を考慮することが重要であると示唆された。

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