梅雨期の東シナ海東部と九州付近にみられた
降水システムの分類とその特徴

西岡 友子

本研究の目的は、梅雨前線帯の降水システムがどのように水蒸気を集め、どのような雨を降らせているのかを明らかにすることである。1997-1999年6, 7月に東シナ海東部と九州付近にみられたmeso-alphaスケールの降水システムを梅雨前線や低気圧との相対的位置や水平スケールから5つのタイプに分類した。タイプごとに降水と水蒸気フラックス収束の特徴を調べ、降水システムがどのように水蒸気を集め、どのような雨を降らせているのかを明らかにした。

解析領域は東経126-133度、北緯28-36度とした。降水システムが解析領域を通過するときにもたらした総降水量をレーダーアメダス解析雨量を用いて計算した。降水システムが解析領域にもたらした対流性降水量を総対流性降水量として算出した。時間平均の降水域の面積、その面積と時間で平均した降水強度も算出した。気象庁スペクトルモデル格子点データを用いて、降水システムを中心とする400km四方領域内の水蒸気フラックス収束域における単位時間あたりの水蒸気フラックス収束量を各層(500hPaより下5層)ごとに算出した。400km四方領域にもたらされた単位1時間あたりの降水量と対流性降水量をレーダーアメダス解析雨量を用いて算出した。単位時間あたりの降水量を単位時間あたりの水蒸気フラックス収束量(500hPaまでの鉛直積算)で割った値を降水効率とした。

梅雨前線上で、低気圧の東側に位置し、水平スケールが最大で約500km以上の降水システムをタイプAとした。タイプAは南西部で強い対流性降水、その北東側で広範囲に層状性降水をもたらしており、総降水量に占める総対流性降水量の割合がほとんどのケースで40%より小さかった。タイプAは950-850hPa間で最も多く水蒸気を集めていた。

梅雨前線上で、低気圧の東側に位置し、水平スケールが最大で300-500kmの降水システムをタイプCとした。タイプCは南西部で強い対流性降水、その北東側で広範囲に層状性降水をもたらしており、総降水量に占める総対流性降水量の割合がほとんどのケースで40%より小さかった。タイプCは地表面-950hPa間で最も多く水蒸気を集めていた。

梅雨前線上の降水システムで、タイプA, Cにあてはまらない降水システムをタイプBとした。タイプBのほとんどのケースが降水システム(梅雨前線)に直交する方向で水蒸気を集めていた。これらのタイプBには低気圧から離れたケースと低気圧に近いケースがあった。低気圧から離れたケースは低気圧に近いケースに比べて広い層状性降水域を伴っていた。低気圧から離れたケースは地表面-700hPa間で平均的に水蒸気を集めていたが、低気圧に近いケースは地表面-950hPa間で最も多く水蒸気を集めていた。

梅雨前線の南側暖域内の海上でみられる降水システムをタイプDとした。タイプDは上空寒冷前線による線状降水システムであった。タイプDのいくつかのケースはタイプA, Cより平均降水強度が大きかった。

梅雨前線の南側暖域内の陸上でみられる降水システムをタイプEとした。タイプEはタイプDより短い線状降水システムであった。タイプEはタイプA, Cに比べて降水域の面積も平均降水強度も小さかった。梅雨前線上の降水システムの降水効率はタイプによらずほぼ45%であったが、その降水効率を与える降水量に対する対流性降水と層状性降水の寄与がタイプによって異なっていた。タイプA, CはタイプBに比べて対流性降水の寄与が小さかった。

タイプAとタイプCは降水分布や降水特性は類似していたが、水蒸気を最も多く集めている層は異なっていた。この違いはタイプAとタイプCが伴う前線構造の違いに起因すると考えられる。タイプBの低気圧から離れたケースと低気圧に近いケースで雨の降り方や水蒸気の集め方が異なっていた。タイプBの雨の降り方や水蒸気の集め方は低気圧からの距離によって決定されていると考えられる。

本研究は、降水システムのタイプごとに雨の降り方が異なることを示し、梅雨前線との相対的位置からの雨の降り方の予測可能性を示唆した。また、東アジア域における水循環のあり方に対して、meso-alphaスケールの降水システムの連鎖である梅雨前線は集めた水蒸気の45%程度を雨に変換しているという示唆を与えた。

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