湿潤大気における噴煙ダイナミクスに関する数値実験

水谷 文彦

大気中へ噴出する噴煙は湿潤過程の影響を強く受け、地下のマグマが持つ熱量と大気中の水蒸気が相変化時に解放する潜熱により噴煙は上昇する。雲微物理過程と簡単な火山物質の物理過程を考慮した2次元流体力学数値モデルを用いて、湿潤大気場における噴煙のダイナミクス、特に噴煙高度と火砕流を調べる実験を行った。

噴煙高度が対流圏内で収まる規模の火山噴火では、大気下層の水蒸気を噴煙が多く取り込むほど噴煙高度は高くなる。噴煙高度には季節変動が存在し、冬季に比べ水蒸気量が多く、大気安定度の低い夏季の方が噴煙は高くまで上昇しやすい。また、水蒸気爆発によって大気に放出される顕熱と潜熱の割合が変化した場合は、大気に対する熱の与え方が変化するので、噴煙高度も変化する。さらに、大気中に雲が存在したときに火山豆石が形成されるが、火山豆石の生成速度が速ければそれに伴って大気に与える負の浮力を持つ火山灰が噴煙の系から抜けやすくなり、噴煙は上昇しやすい。

地下水がマグマを冷やすことで、大気に顕熱を与えられずに噴煙が浮力を獲得できないことによって低温の火砕流となる Wet Base Surge をシミュレーションで再現した。また、一度上昇した噴煙内に雨滴が形成され、落下時に蒸発冷却を起こすことによる下降流の励起が、火山灰の負の浮力の効果と重なることによる低温の火砕流が存在することを示した。また、火砕流の生成発達も大気安定度の影響を受ける。安定度の高い冬季の方が噴煙が上昇しにくい分、火砕流として遠くまで流れやすい。火山豆石が生成される場合は、火砕流内から負の浮力を与える要因が失われるので火砕流は弱まる。

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