日本海寒帯気団収束帯上に発生した
メソスケール渦状擾乱の構造と発達過程

長谷川 晃一

2001年2月2日に観測された北陸沖で発生した渦状擾乱について、主にドップラーレーダデータを用いてその三次元構造を調べた。この渦状擾乱は寒気の吹き出し時に発生した擾乱で、3つの対流システムから構成されていた。渦の水平スケールは約80kmで、中心部ではエコーが弱く低気圧性循環が見られた。また、この渦は速度傾度が大きいシアライン上に位置していたことから日本海寒帯気団収束帯(JPCZ)上に発生した渦状擾乱であったと示唆される。この渦状擾乱を構成する対流システムであるWING1・2はJPCZ上で形成された対流システムであった。特にWING1は渦の発達に伴う低気圧性循環の強化とシアラインの北側と南側の温度傾度によって収束が強化された結果、非常に強く発達したことが分かった。WING3についてはシアライン南側の一様な西風場で発生していており、WING1やWING2とは形成過程が異なるシステムであった。このWING3は陸上の冷たい空気塊と海上の暖かい空気塊との収束によって形成されていた。

更にこのJPCZ上に発生する渦状擾乱の形成・発達過程を数値実験を用いて調べた。数値実験では地表面や地形の効果を含まない水平シアと温度傾度を伴うシアラインのみを与えて渦を発生させた。その結果、数値実験で再現した渦状擾乱と観測で示された渦状擾乱はその特徴が非常に似ていた。このことからJPCZで発生する渦には温度傾度と水平シアを伴うシアラインが本質的な役割をしていることが分かった。また温度傾度・水平シア・湿度による渦状擾乱の発達過程への影響を調べるために感度実験を行った結果、水平シアが強くなるほど波長の長い渦が卓越し、温度傾度が大きくなるほど波長の短い渦が卓越していた。これらのスケールは、水平シアは平均流のシア幅に対して卓越する波長の割合を変えることで決めており、温度傾度は平均流のシア幅を変えることでそのスケールを決めていたことが分かった。一方、水平シアが小さい実験では渦が、水蒸気の凝結の効果を無くした実験では渦もシアラインも形成されなかった。この結果から渦の形成には水平シアが重要であることが分かった。また渦が形成できるような強い水平シアを伴うシアラインの形成には水蒸気の凝結の役割が不可欠であることから、この渦状擾乱は湿潤大気固有の現象と考えられる。これらの渦についてエネルギー収支解析を行ったところ、順圧過程によるエネルギー変換は傾圧過程のエネルギー変換の大きさは数倍程度の違いしかなく、これらは同じオーダーであった。従って、JPCZ上で発生する渦の発達過程としては、順圧過程と傾圧過程の両方のエネルギー変換過程が重要であることが分かった。

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