大阪湾上で観測されたマイクロバーストの力学的特性

嶋 亮太郎

マイクロバーストは、積乱雲から発生する強い下降流が地上に到達したあと放射状に発散し、突風となって吹き出す現象である。このような放射状の吹き出しに伴なう突風は大気中に急激な風向風速の変化をもたらし、しばしば航空機事故を引き起こすことがある。しかしながら、マイクロバーストは空間的・時間的に小さいスケールの現象であるため、その観測・検出が難しく、気象現象としてまだ十分に解明されていない。

近年、マイクロバーストに関する様々な研究・観測プロジェクトが、国内外を問わず広く行なわれるようになり、マイクロバースト観測に対するドップラーレーダーの優位性が確認されてきた。そこで本研究では、1998年8月25日午後、大阪湾に停滞した帯状積乱雲群に伴ない発生したマイクロバーストに関し、北海道大学 低温科学研究所の高速三次元ドップラーレーダーによる観測データ、及び関西国際空港・空港気象ドップラーレーダーによるマイクロバースト自動検出データを用い、マイクロバーストを発生させた対流雲内での下降流の力学的特性に着目し、事例解析を行なった。

寒冷前線の通過に伴ない瀬戸内海東部で発生した帯状積乱雲群は、その後発達しながら東進し大阪湾内に停滞した。このとき関西国際空港・空港気象ドップラーレーダーは、19時22分(JST)からの約80分間に延べ54回、マイクロバーストを自動検出した。本事例で解析をしたマイクロバーストは主に、エコーシステムの中心部とエコーシステムの進行方向後面との二つの領域に偏在していた。

エコー中央部に発生したマイクロバースト(central region type)の発生・強化には、対流雲内の降水粒子がまわりの空気を引きずり下ろす力(water loading)が大きく寄与していた。一方、エコーの後面で発生したマイクロバースト(outer edge type)の発生・強化には、大気中層からエコー後面に流入した乾燥大気による蒸発冷却(evaporation cooling)に伴った負の浮力が効果的に働いていた。
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