夏季に山地と平野の境界で発達した積乱雲の内部構造

佐野 哲也

山岳域や山地と平野の境界付近など、地形の強制があるところで積乱雲は多く発生・発達する。夏季に日本では山岳域などで多くの積乱雲が発生し、夏季の降水の主要な部分を占める。そこで本研究では、夏季に山地と平野の境界付近で発達した積乱雲の内部構造を調べるために、2000年7月5日に伊吹山地と濃尾平野の境界付近に発達した積乱雲の事例を主にドップラーレーダーのデータを用いて解析した。

解析された対流性エコーには、山地側から平野側へ向く鉛直シアのある環境場において、2つのタイプの対流セルが存在した。1つは鉛直シアの方向に傾く形状をしたDownshear Tilting タイプ対流セル(DT型セル)、もう1つはほぼ直立する形状をしたUpright タイプ対流セル(U型セル)であった。発生時間を調べたところ、DT型が先行して発生し、その後にU型が発生したことが分かった。それぞれの発生分布を見ると、どちらも山地と平野の境界付近に列状に発生した。個々の対流セルの寿命は短いが、それらが時間を追うごとに次々と発生し、ほぼ同じ場所で発生・発達したことで、解析された対流性エコーの寿命は長く、長時間停滞した。

DT型セルは、海風が山岳域に向かい斜面を登るときに発生する強制上昇流と環境場の鉛直シアの効果により発生した。DT型セルが成熟から衰弱期に達したときに、DT型セルの後方、山地側にU型セルは発生した。U型セルは、それが出現する前にその上空に伸びる弱エコー域が存在したことが示された。またU型セルが出現する時とほぼ同時刻に、地上で山側から対流セルに向かう風が観測された。これらよりU型セルは、DT型セルが通過したことで、環境場は局所的にU型セルが発生しやすい場に変化し、下層での水平収束によって生じる上昇流により発生し、それが発達して上層のアンヴィル域に達したとき、そこでの氷晶の昇華成長がU型セルの発達に寄与したと考えられる。

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