鉛直シアの弱い大気場で発達した長寿命の積乱雲の3次元構造

出世 ゆかり

1998年7月13日に、中国安徽省の寿県、淮南、鳳台に設置された3台の ドップラーレーダ観測領域内で多くの積乱雲が観測された。 それらのうちで最も長寿命であり、 エコー頂も著しく発達した積乱雲の3次元構造の特徴を、 主にドップラーレーダの観測データを解析することにより調べた。 1998年7月16日に観測された激しいスコールラインと比較しても、 この積乱雲が保持していた3次元的総雨水量は非常に多く、 強いエコー領域の体積も非常に大きかった。 積乱雲が発達した大気環境は、CAPEが2300J/kgであり、 高度5kmまでの風の鉛直シアは1.8m/s/kmとかなり弱かった。 積乱雲は、一般場の鉛直シアの方向に約9.7m/sで移動しており、 約1時間半にわたって14km以上のエコー頂を維持していた。 この積乱雲は、組織化されたマルチセル型の積乱雲や スーパーセル型の積乱雲の構造の特徴を持っていないにもかかわらず、 長続きし、エコー頂が18kmを越えるほど非常に発達した。 この積乱雲は複数の降水セルから構成されていたが、 その全てが発達したのではなく、ある降水セルのみが著しく発達した。 積乱雲の進行方向に直交する方向では、一般場の鉛直シアは 非常に弱いにもかかわらず、 積乱雲の内部にはその方向に強い鉛直シアが存在していた。 また、上昇気流は、その鉛直シア風上に位置しており、 積乱雲の進行方向に直交する方向では短寿命型の積乱雲の構造をしていた。 しかし、一般場ではみられない下層の東風によって、 積乱雲の南西側から流入する空気の上昇が維持されており、 さらに下降気流の主部が一般場の鉛直シアの方向 (積乱雲の進行方向の前方)にずれることで 発達した上昇気流は長時間維持されていた。 このように、上昇気流を維持し続ける下層の東風が積乱雲の 内部に存在したことが、一般場としては風の鉛直シアが小さい大気環境で、 積乱雲が長時間維持され、著しく発達する上で重要であったと考えられる。 また、上昇気流の発達には 非常に近い位置に存在していた2つの対流セルの融合も寄与したと推測される。
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