降水形成と降水強化におよぼす島の地形効果に関する研究

梅田 弘之

1996年6月中旬から7月中旬にかけて、九州南部地域を観測対象域として梅雨期の豪雨 形成に注目した集中観測が行われた。種子島に設置された2台のドップラーレーダの観測デ ータその他を用い、寒冷前線の接近、通過に伴い6月18日に屋久島上に観測された降水エ コーと、種子島南部東海上で観測されたエコーについて、その形成、維持機構を解析し た。これらの降水形成、維持には、屋久島と種子島の地形が重要な役割を果たしていること が示された。
寒冷前線の通過の約5時間前に、屋久島上に組織化された多重セル型の形態を示す積乱雲 が観測された。このシステムは鉛直シアーの風上側に次々と新しいセルが形成される点で、 通常の組織化された多重セル型の積乱雲とは異なる。このシステムの維持には、地形性上昇 流と共に、セルの下降気流の屋久島斜面に沿う風上側への発散流が重要であると考えられる。 屋久島の風下側に、このシステムによって強い降水が集中したことは注目される。
また、屋久島から東進してくる降水エコーが、種子島南部東海上で、エコー頂高度16km を越すほど再発達するという興味ある現象が観測された。これは、屋久島の影響を受けて形 成された降水によって下層に大きな水蒸気混合比を持つ空気が作られ、持ち上げ凝結高度、 自由対流高度が213m、600mと低いこの空気が、屋久島の風下に位置する種子島によって 持ち上げられ、対流雲が形成、発達したためと考えられる。更に、屋久島があることにより、 種子島の上空高度2km付近に強い西風が形成され、この風が種子島の東海上で南西からの 一般風と強く収束し、種子島東海上で対流雲を非常に発達させたと考えられる。
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