尾鷲沖に長時間持続した下層エコーの構造と成因

田中 久理

我々は、1993年6月から10月にかけて、2台のドップラーレーダーを用いて、尾鷲 周辺に出現する降水雲の観測を行った。その際、10月7日の観測中に背が低く、強度 も弱い下層エコーが出現した。本論文では、このケースについて解析を行い、地形効果に よる海上域の収束及びエコーの発生との関連について調べた。平均的に見たときの熊野灘 沖の気流系は海岸線から30km沖合にまで風速低下の影響が伝わり、地形性収束が海上 域にも上昇流を発生させる事が分かった。また、数値シミュレーションとの比較も行い、 上昇域、上昇流速ともよい値で一致していた。
一方、観測期間中の7時30分から9時までに、急にエコー強度が強まり、エコー発 生地点が風上に前進する現象が現れた。これは一時的に強風が吹き、その気塊が熊野灘沿 岸で強い収束を引き起こしたためであることが分かった。このとき上昇流が発生するシ アー層の前面の勾配は密度流のノーズのような形をしており、局地的に強い上昇流が発生 した。エコー域及び風速の時間変化等からエコーの前進をもたらした強風がメソβスケー ルの気塊からもたらされていたことが分かった。
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