Re: 6月20日のアオダス情報(梅雨らしい降水とは?)


送信者:"H. Uyeda" <uyeda@ihas.nagoya-u.ac.jp>
送信時刻:2002年6月23日 14:53

青レーダー慎吾くんへ
日本へ晴天を取り戻してくれた篠田さんへ

                  上田 博


ワールドカップに関しては、現場に行かなくても、韓国の粘
り強さなど見るべきものは多いと思います。
審判も見方につけてしまうひたむきさもすごいと思います。
しかし、気象現象の理解は現場にいないとわかりずらいこと
が多いですね。
青レーダー慎吾くんの層状性降水域での落雷報告に対するコ
メントです。
層状域からの落雷は最近特に注目されています。
対流域では負極性落雷が多いのですが、層状域では正極性落
雷の割合が多いことが知られています。
篠田さんのコメントのようにどこかに対流性のエコーが見ら
れると思いますが、融解層以下では層状でも上空では対流的
なエコーが見られているかもしれません。
霰と切片の接触の電荷分離は霰が負に帯電することを基本に
考えています(温度と湿度で変わるので鵜呑みにしないでく
ださい)し、雪・霰の融解時には融解層付近に正電荷がたま
ることが知られています。
アジアンテーストをつけるとしたら、どのような層状域がど
のように形成されたかを明らかにすることだと思います。
しっかりした観測をして、現場でどのような現象であったか
を整理して考えておいてください。


> 青レーダー清水くんへ
> Cc: 研究室のみなさま
> 
> 篠田です。
> 
> 中国から帰国していきなりワールドカップ観戦というハードな日程
> をこなしたせいか(笑)、少々体調不良... 明日は動員令がかかっ
> ている大学行事ですが、参加できるほど体力&気力が復帰するか?
> 
> それにしてもワールドカップのライヴ観戦はすごかったです。
> とにかく会場の雰囲気には圧倒されました。常に応援歌(大脱走)
> を歌っているイングランドサポ、チャンスとみるや勝手に盛り上が
> る(周囲を盛り上げる人がいる)ブラジルサポ。篠田はイングラン
> ド5番ファーディナルドのユニホームが欲しかったのですが、無か
> ったのでミーハーぶりを発揮してベッカムのレプユニを購入...
> アホデスネ...
> 
> さて、本題。清水くんからの概況報告はネタとしては面白いですよ
> 〜。上田先生からのコメントが欲しいところです。篠田としては、
> 現時点で現象に対する仮説を立てられないでいますが、仮説に至る
> 矛盾点を列挙しておくことは悪くないと思いますので、コメントし
> ます。
> 
> shimizu>> 今回のケースで特徴的だったのは、
> shimizu>> 下層で明瞭な収束も見られず(ガストもでていない)
> shimizu>> 風だけをみると、なんだか層状エコーのように
> shimizu>> (乱れが見られないという意味で)
> shimizu>> 一様に南西風場であった。つまり
> shimizu>> ハッキリした対流性エコーの特徴が
> shimizu>> 見られなかった事だと思います。
> shimizu>> 
> shimizu>> これだけ、下層の収束が明瞭でないのに、
> shimizu>> 落雷を伴うような、激しい降水システム
> shimizu>> (cold rain プロセス)になれたのは
> shimizu>> なぜなんでしょうか?(これが「梅雨らしさ」なのでしょうか?)
> shimizu>> 興味深いです。
> 
> まず、何人かの方(含む上田先生)とは議論した内容ですが、これ
> まで考えられていた(アメリカ的)対流雲の発達過程とアジア的な
> 対流雲の発達過程をまとめてみましょう。
> 
> (1) アメリカ的対流雲の発達過程
> 	中層が乾燥しているので、浅い対流は抑制されるが、下層
> 	の収束は強まる(対流雲衰退の際の蒸発冷却による)ため、
> 	対流雲は一気に深く発達できる。
> 	# 対流雲が深く発達する場合に乾燥気塊の存在が重要で
> 	# あり、乾燥気塊と湿潤気塊の境界において深い対流雲
> 	# が発生するというのは、中村先生の主張でもあります。
> 	この場合、凝結高度は高く、より高い高度で凝結の潜熱が
> 	解放されるため、対流圏中層での上昇気流の風速が強まり、
> 	融解層上部まで輸送される水蒸気量が増える。融解層より
> 	上部で一気に凝結して雲水が形成され、霰に取り込まれる
> 	ため、発雷が観測される。
> 
> (2) アジア的対流雲の発達過程
> 	通常の「梅雨前線的」な降水は、下層と中層が十分に湿っ
> 	ているために下層において水蒸気が凝結してしまい、高度
> 	が低いうちに降水として(暖かい雨過程)地上に落下して
> 	しまう。このために、融解層よりも高い高度まで到達でき
> 	る水蒸気量が決定的に少なくなる。冷たい雨過程が全く効
> 	かないことはないだろうが、降水の中心は暖かい雨過程で
> 	あろう...
> 
> 今回、清水くんからの報告にあったケースを検証すると...
> 
> (a) 下層収束は弱い(おそらくは下降気流が弱い、つうことは中層
>     は湿っていると考えられる)。このことは典型的なアジア的対
>     流雲の発達過程の条件であると考えられる。むしろ、湿った条
>     件において大規模上昇流が存在すれば、広い範囲で層状的な降
>     水エコーが観測されるだろう(清水くんの報告に合致)。
> (b) 雷が観測されたということは、おそらくは強い上昇気流が発生
>     したのでしょう。問題はこの強い上昇気流が何によってもたら
>     されたかということです。
> 
> ここで清水くんに訊きたいのは、発雷は連続して長い時間に渡って
> 発生したのか、短い時間内だけで発生したのか(一つの対流セルか
> らもたらされたのか)ということですね。
> 
> (c) 雷が連続して観測されたとすれば、下層で「常に」強い収束が
>     必要となりますが、これは(a)の条件と矛盾しますね。一般場に
>     強い収束が見られないのに(偶然、対流システムとして場を改
>     変し、一発だけ強い収束を作ったというのはあるかもしれない)
>     発雷をもたらすような深い対流が発生した過程は理解できませ
>     んね。
> 	# 偶然できた深い対流であるとすれば、それはそれで、
> 	# なぜ出来たのかの発達過程を明らかにすることも興味
> 	# 深いテーマですよね。
> 
> 今回のケースはアメリカ的でもアジア的でもない現象かもしれませ
> ん。もしくはアジア的な発達過程をもう少し練り直さなければなら
> ないかもしれません。詳しくは清水くんの解析を待ちたいと思いま
> すが、彼の解析に資することのできるようなコメントを出し合える
> と良いと思います。我こそはと思う方は、篠田の視点にコメントを
> くださいませ。よろしくお願いいたします。
> 
> ではでは。
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> Taro Shinoda <shinoda@ihas.nagoya-u.ac.jp>

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上田 博
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