"Polarimetric radar"と呼ぶようになった歴史


2009年1月18日〜 メールのやりとりから

偏波機能を持つ気象レーダーを、国際的には"Polarimetric radar"と呼ぶことが多いようです。 一方、日本国内では、"マルチパラメータレーダー"と呼んだり、"偏波レーダー"と読んだりします。 どの呼び方が正しいのでしょうか。

偏波機能を持つレーダーの呼び方について、上田先生が以下のような歴史を話してくださいました。


国際学会 (ICCP:雲と降水学会 や レーダー学会) では
dual frequency radar (Doppler radar の機能を含むものとそうでないものあり)

dual polarization radar (Doppler radar の機能を含むものとそうでないものあり)

multi parameter radar (主に現在の polarimetric radar であったが、
いろんな機能のレーダに対してつかわれていた。多機能レーダに近い概念だった。)

 研究者コミュニティの中で混乱があったので、レーダ工学出身の気象レーダ研究者が
polarimetric radar という用語を使おうと提案して、
1990年後半にはpolarimetric radarという用語が定着した。

polarimetric radar

 

日本には2周波でかつ偏波機能を持つレーダが実用化されませんでしたので
主にアメリカでの用語変遷の経緯が理解できないかもしれませんが、2周波、
2偏波、ドップラーの機能を全部またはいくつか組み合わせてレーダシステ
ムがあった時に multi parameter radar という言葉が使われました。 
Zdr、φdp、ρhv 等のパラメータを測定できるようになると、現業用には2
周波レーダに対する期待が薄れ、アンテナ一つで、直交2偏波(45度偏波も
含めて)、位相測定(ドップラーシフト測定)可能なレーダが次世代レーダ
として多くの人に認められるようになって、polarimetric radar という
言葉が定着しました。                        

問題は polarimetric radar の日本語訳が偏波レーダではないことです。
偏波レーダには円偏波レーダと直交2編波レーダがあります。       
これは polarization radar の和訳に対応します。          

polarimetric radar をあえて和訳すると偏波機能利用レーダだと思いま
すが、行政の人や一般の人には多機能偏波レーダのほうがわかりやすいだろ
うという思いがあり、日本語で予算提案するときにマルチパラメーターレー
ダになっていったと考えられます。                  

英語で表現するときには polarimetric radar を使っておいたほうが誤解
を受けなくて良いと思います。multi parameter radar を使うときはどの
ようなレーダかのきちんとした説明をつける必要があります。       

ただ,このままだと、国内ではマルチパラメーターレーダが普及して、   
polarimetric radar の意味で使われようようになるかもしれません。  
研究者コミュニティに polarimetric radar に対応する日本語を提案して
定着させる必要があります。                      

 

 

ちなみに、円偏波レーダーは当初、軍事用として開発され、それを気象に応用できないかと、気象用に使用されたのですが、気象用には円偏波レーダーよりも直線偏波レーダーのようが実用的れあったため、円偏波レーダーは気象でほとんど使われなくなったそうです。

 

 

参考

国内の主要 "Polarimetric Radar"

   所有機関:             名称 (周波数帯)

   情報通信研究機構:         沖縄偏波降雨レーダ、通称COBRA [CRL Okinawa Bistatic Polarimetric Radar] (C バンド)

   防災科学技術研究所:        MP-X1-3 (X バンド)、偏波ドップラーレーダー

   名古屋大学地球水循環研究センター: 金(Kin)レーダー、銀(Gin)レーダー (X バンド)

 

 

 

 

 


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