深尾先生著の『気象と大気にレーダーリモートセンシング』が改訂されるということで、その改訂版にわれら考える会が決定した、偏波パラメータ日本語名を参考にしていただけるかもしれないと期待して第1回検討会を開催しました。 偏波パラメータは教科書ごとに違う日本語名称が使われていて、どれを使えばいいのかわからないので、わたしたちで1つに決定、もしくはもっと適切な名前をつくることが今回のテーマです。
議題:偏波パラメータのぴったりの日本語名称を考えて名称を1つ決定する
とりあえず集まったメンバー: 出世さん、大東さん、学部生の時はライダーで研究していた纐纈くん、遠藤さん、尾上、そして上田先生。
今回検討したパラメータ、および最終案
日本語名称を決定する際に、
・その日本語名称から定義をイメージしやすい
・「簡潔」である(短い)
ことをポイントにしました。
---各パラメータ名称の検討内容----
[英語名称]:radar reflectivity factor
Zhh(Zvv) = | ⌠ ⌡ |
D6N(D)dD | [mm6m-3] |
[英語名称]:radar reflectivity
10log10Z[dBZ] |
[検討内容]:
多くの教科書では「レーダー反射因子」に統一されている。 そういえば、「反射因子」と「反射強度」の違いを区別して使っていなかった・・・
これは、教科書どおりに
→ Z[mm^6/m^3]:radar reflectivity factor:レーダー反射因子
→ 10logZ[dBZ]:radar reflectivity :レーダー反射強度
に決定。
[英語名称]:differential reflectivity factor
ZDR = 10log10(Zhh / Zvv)[dB] |
= 10log10(Zhh) - 10log10(Zvv) [dB] |
[検討内容]:
定義式1行目右辺の括弧内に注目すれば"反射因子比"。
定義式2行目右辺の形から考えると"反射強度差"。
⇒ 一般的に使われている"反射因子差"は厳密には適切ではない。 むしろ、この名称は後述のZDPに適切であると思われる。
しかしすでにZDRの日本語名称としてかなり浸透している。 そこで妥協して、いや、やむを得ず、
「Z"因子"それぞれにlogをとったものの"差"⇒"反射因子差"」
と解釈して、"反射因子差"を採用。
(余談) 英語名称の"differential"と"difference"の違いは??
"differential": 《数学》微分、微分の
"difference": 《数学》差、差分
"differential(微分)"なら、"差"ではなく、"割合、比"とも解釈できる。
英語名はうまいことつけてあるなあ。
[英語名称]:differece reflectivity
ZDP = 10log10(Zhh - Zvv)[dB] |
[検討内容]:
これは今回勉強するまでなぞのパラメータだった。 われわれ理学(自然現象の理解)の分野ではほとんど使われない。
このZDPは、粒子の形状だけでなく数濃度も関係するパラメータで、KDPに似た意味を持つ。
定義式右辺の括弧内に注目すれば"反射因子差"。
しかし、"反射因子差"はZDRの名称として使用するのでZDPには使えない。
→ZDPはKDPに似た意味を持つため、位相を測定できない偏波レーダーでは 役に立ちそうだが、将来的にはそれほど利用されないのでは。
→対数の中身は正でなければならないためZhh>Zvvでなければならず、 霰のような縦長粒子には使えない(雨に対する使用を想定したパラメータ)。
そこで、"反射因子差"の名称はZDRにゆずることにして、ZDPには日本語名称を付けないことにする。
[英語名称]:linear depolarization ratio
LDRhv = 10log10(Zhv / Zvv) [dB] | LDRvh = 10log10(Zvh / Zvv) [dB] |
[検討内容]:
LDRは今回の議論で一番もめたパラメータ。
このLDRは、教科書によって"交差偏波比"、"直線偏波抑圧度比"、"直線偏波抑圧比" など、様々な日本語名称が採用されていた。
しかし、"抑圧"はピンと来ない。
ライダー分野では、"偏光解消度"というらしい。
しかし、"解消"もピンと来ない。
LDR観測のターゲットはブライトバンドなどで、降水粒子の中では送信偏波に直交する偏波の散乱(Zhv,Zvh)が比較的強い場合に有効なパラメータである。 (ほぼ球形の雨滴に対しては極めて小さい値か測定されない。)
→"抑圧"よりむしろ"交差偏波変換率"というイメージ。
⇒"抑圧"の主語を送信偏波と同一偏波の後方散乱電力(Zvv,Zhh)と 考えるとよいのでは。
後方散乱断面積が一定の場合、垂直偏波送信時の後方散乱電力の総和を [Zvv + Zhv = 一定] とすると、交差偏波の散乱電力(Zhv)が生じた場合、
送信偏波と同一偏波の後方散乱電力(Zvv)は"抑圧"される。
したがって、後方散乱電力の総和に対して 送信偏波と同一偏波の後方散乱電力(Zvv)の抑圧比は
[Zhv / (Zvv + Z hv)]. |
ここで、Zhvは微小値であることと、処理の簡単化のため、
[Zhv / Zvv]. |
を送信偏波と同一偏波の後方散乱抑圧比と考える。
これで"直線偏波抑圧比" の名称に納得。
もしくは"交差偏波変換率(比)" か。
-----"直線偏波抑圧比" か"交差偏波変換率(比)"のどちらを採用するか----
・「交差偏波」だと「直線偏波」という意味に加えて直線偏波の向きが変わるという意味合いがある。「直交」は「交差」に含まれる。
「交差」なら「変換」または「生成」
「直線」なら「解消」または「抑圧」
が対になる。
・LDRの英語(linear depolarization ratio)の訳として適切なのは「直線偏波抑圧比」。
「交差偏波変換率」でも同じことを指すが、linear depolarization ratio から直接イメージされる内容とは異なる。
→ 一つ一つの事で世界の人と共通のイメージを持てるような日本名であることも重要な要素であるので、
名大としては"直線偏波抑圧比"に決定。
-----「depolarization」?-----
以上のLDR議論の最中に問題になったのが、英語名称の”depolarization”。
どうやら、”depolarization”が"偏波抑圧"や"偏光解消"と訳されているらしい。
この”depolarization”をどう訳すかがキーらしいということで、何がいいかと悩んでいるところへ、修論でほとんど毎日徹夜状態のM2の上伏君登場。
上伏君「ちょっといいっすか。もう"デポ比"でいいんじゃないっすか。」
「!!」
重要ポイントである簡潔。そして言いやすい。
日本語には、英語と日本語を混ぜて使えるというメリットがある。「アスペクト比」という言葉もある。
ええんちゃう? "デポ比"。
⇒とりあえず研究室内では、通称"直線デポ比"あるいは"デポ比"の使用可。
(余談、後のメールのやりとりから)
"ratio"を含む英語を直訳すると「○○比」という訳が多いように思われる。
《ratio:リーダーズ英和辞典(電子辞書)》 比、比率、割合
例):オンライン辞書から
・SN*比* :signal to noise *ratio*
・比熱*比*(
・混合*比* :mixing *ratio*
・アスペクト*比* :aspect *ratio*
"ratio"は時間・場所による変化は考えず、あくまでもその時間・場所の"比"を見る、というイメージ。
一方で、もし"rate"であればratioの意味に加えて率、変化率、速度の意味があるので、"率"という訳の方が合う。
[英語名称]:correlation coefficient (at zero lag)
ρhv(0) = |〈SvSh〉| / (〈|Sh|2〉1/2 〈|Sv|2〉1/2) |
[検討内容]:
どの教科書でも"偏波間相関係数"で統一されており、納得。
[英語名称]:differencial phase
[定義]: φDR = φhh - φvv
[検討内容]:
電波が伝搬することによって生じる値なので"偏波間伝搬位相差"など、「伝搬」、(移送の)「遅延」という言葉があったほうがいい?
⇒電磁波が空間を「伝搬」し、真空中以外を伝搬する場合では真空を伝搬する場合に比べて位相が遅れるということは気象レーダーの世界では暗黙の了解。
⇒「伝搬」、「遅延」という言葉は不要。
よって、"偏波間位相差"に決定。
[英語名称]:specific differencial phase
KDP = (φDP(r2) - φDP(r1)) / (r2-r1) [deg/km] (φDPの距離微分) |
[検討内容]:
"specific"="特定の"を、距離微分を表現する"変化率"と解釈し、
φDPに"変化率"つけて、"偏波間位相差変化率"に。 |
メモ