山岳波の実験


実験の概要

ここに示す山岳波の実験は、里村雄彦氏(京都大学・理)が提案された「急峻な地形での非静力学モデルの比較実験」(気象学会2001年春期B368参照) Standard Simulation Conditions for Steep Mountain Model Intercomparison Project (St-MIP) の参照実験として実施したものである。
実験の設定は、
http://www-clim.kugi.kyoto-u.ac.jp/satomura/Misc_Data/SimCon.html
にあるものに準拠した。

ここで用いたモデルは、榊原篤志(高度情報科学技術研究機構)・坪木和久(名古屋大学 地球水循環研究センター)の開発によるCReSS (the Cloud Resolving Storm Simulator)、およびオクラホマ大学の開発したARPS (the Advanced Regional Prediction System)を用いた。

里村氏の提案された実験の共通の条件は上記のHPにあるが、あらためてここに 記述する。

  • 2次元。
  • 領域下部の中央にベル形の山を置く。
  • 水平の計算領域は 2000×dx (dxは水平格子サイズ)。
  • 計算領域の高さは、15km以上で、必要であれば上部境界のダンピング層を置く。
  • 基本場の水平風速は 10m/sで一定。
  • ブラントバイサラ振動数(浮力振動数)は一定。

    これに加えてここでの実験に共通する条件として、
  • 座標系は地形準拠座標(z*系)。
  • 鉛直格子は等間隔。
  • 側面境界は周期境界条件。
  • 上部境界に適当なダンピング層を置く。
  • 下部境界は自由端条件。
  • 出力は、IEEE big endian 32bit UNIX binaryで、速度(u,w)、気圧偏差、温位偏差。
  • 結果の出力は、Z*系から、Z座標系に変換して出力。(ただしARPSはZ*系のまま)。
  • ドライモデル。

    CReSSの基本的特性

  • 基礎方程式系は非静力学・圧縮系。
  • 空間微分は格子点法を用い、水平・鉛直とも音波に関する項以外は陽解法、鉛直の音波に関する項は陰解法。
  • 時間積分は時間分割で音波に関係する項以外の積分にはleapfrog法をAsselinの時間フィルターを併用して用いた。
  • 乱流は乱流運動エネルギーを用いた1.5次のクロージャ。
  • 移流の計算は4次の精度のものを用いた。
  • 数値拡散は水平・鉛直に4次のものを用いた。
  • ここでの計算は東京大学情報基盤センターのSR8000および名古屋大学大型計算機センターのVPP5000を用いた。

    実験の設定と結果

    ここでの実験の設定は里村氏が上記のHPに示された条件と、その他に下記のD3について行なった。

    実験名 (Ser.) A1 A2 A3 A4 D1 D2 D3
    山の半値幅 : a (m) 5000 500 100 50 500 250 200
    山の高さ : h (m) 100 100 100 100 500 500 500
    山の平均斜度(度) 0.57 5.7 26.5 45.0 26.5 45.0 51.3
    山の形の図 Topo.A1 Topo.A2 Topo.A3 Topo.A4 Topo.D1 Topo.D2 Topo.D3
    基本場の浮力振動数(/s) 0.02 0.02 0.02 0.02 0.01 0.01 0.01
    スコラー数(/m) 0.002 0.002 0.002 0.002 0.001 0.001 0.001
    水平格子サイズ(m) 100 100 20 5 50 50 50
    鉛直格子サイズ(m) 250 100 20 5 50 50 50
    鉛直格子数 103 253 253 253 253 253 253
    モデルの高さ(km) 24.9 25.0 5.0 1.2 12.5 12.5 12.5
    ダンピング層の最低高度(km) 18.0 18.0 4.0 1.0 10.0 10.0 10.0
    計算時間(分) 300 100 20 10 100 100 100
    CReSSの結果 CReSS.A1 CReSS.A2 CReSS.A3 CReSS.A4 CReSS.D1 CReSS.D2 CReSS.D3
    ARPSの結果 ARPS.A1 ARPS.A2 ARPS.A3 ARPS.A4 ARPS.D1 ARPS.D2 ARPS.D3

    ここで平均の斜度は山の高さを半値幅の2倍で割ったもので計算してある。

    結果として、CReSSとARPSはともにZ*系を用いているにもかかわらず、45度を 越えるような地形においても、大きなノイズを発生することなく計算を実行し た。また両者の結果を比較すると、ほぼ同じ結果を与えている。ただしARPSの 方がややなまった結果になっているように思われる(ARPSは鉛直に2次、水平 に4次の数値粘性)。

    計算時間はHITACH SR8000で1PEで実行した場合、ARPSのほうがCReSSより約1.7 倍の時間がかかり、CReSSの方が計算効率がよい。

    追加実験 一 非定常な山岳波

    CReSSの山岳波の追加実験として、大振幅の非定常な山岳波の実験を行なった。 計算条件は、山の高さが 1000m、浮力振動数が 0.02/s である以外は、上記 Ser.D2 と同じ条件を用いた。山の形をTopo.B2に、 初期値から70分後の結果をCReSS.B2に示した。

    結果には山の風下に非定常な山岳波が形成されている様子が見られる。特に注目する点として、山の風下の地表近くには、風速 30m/s の水平風があり、その上の高度 1km 付近には逆向きの風が見られる。また、地上の大きな水平風が前線を形成しながら風下に伸びていく様子が見られた。

    謝辞

    本研究の機会と方針を与えていただきました京都大学の里村雄彦先生に対して、 ここに記して深くお礼申し上げます。